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目が覚めたら。
第10章 変態王子様のご褒美
 

 じとりと嫌な汗が頬を伝い落ちる。


 そんな中、耳障りに響くのは、


『あぁぁぁんっ、はぅ……っん、ああああっ』


 中々に果てを見ない"公演"中彼女の、大仰に聞こえてくる喘ぎ。

 その声音は艶があっても、どこか嘘臭くしか聞こえて来ないのは、あたしの心が官能から完全離れて、リアル危機感に焦っているからなのか。

 空々しいBGMに乗じて、人々のざわざわが言葉として耳に届く。

 いや、ざわざわではなく、わざとらしい声だ。
 


「なあ、今気づいたんだけど、あの首のところのホクロ……」

「もしかして、『体売りの田舎娘』でデビューした、AV女優じゃね?」 

「ああ、『岡本かめ子』? なんでそんな有名どころがきてるの?」

「俺達を煽るためのサクラ?」


 あの少女が『岡本かめ子』……省略して「おかめ」なるプロで、巡業の一環で一般客を装って「出演」していようが、完全オフの参加だろうが、今はどうでもいい。

 皆が揃いに揃って知る「田舎娘」を武器にした有名なAV女優が存在する事実があろうが、わざとそう口にしている彼らの方が彼女を売るためのサクラであろうが。彼女の正体がなんであろうが、それを相手する男は素人だろうがAV男優だろうが、どうでもいい。


 気分は、目の前にカウントダウン始めた時限爆弾を見つけた時のようなもの。どうしようばかりが頭に回り、他人なんか考える余裕はない。


「さあ、淫魔なお姉サマは、あの女の冷めた"演技"を越えて、周囲の男達をトイレに追いやれますかね?」


 メガネの奥の目が挑発的に細められ、レンズがキラリと光る。


 やば。

 やばやばやば。


 じり……。


「そんなに警戒するな。骨までは食らおうとは思っていないから」

「ほ、骨なんか最期じゃない。それ以外は食らおうとしてるの!?」


 淫魔を餌にしようなんて、このダークピュアピュアめ!!

 ぶるぶるっ。


「まぁ……まずは味見からだがな」


 ゆったりと笑うその顔は、どこまでも余裕。


「淫魔は美味しくアリマセン」

「味わってみなければわからない。納豆と一緒だ」


 なんと――!! 淫魔を腐れた豆と同列に扱うなんて。

 モモちゃんのピュアピュアよ、カムバック!!

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