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目が覚めたら。
第10章 変態王子様のご褒美
じり、じり……。
カムバックといいながらもモモちゃんから遠ざかろうとするあたしは、少しずつ後退りし、本能的に大きく踵を返して全力逃走しようとした処を、パーカーを掴まれ難なく捕獲される。
「傷つくな、逃げるなど。俺を励まし勇気づけてくれた、優しく綺麗な……初恋のお姉サマらしくないじゃないか」
"綺麗"の多用は、最早首に突きつけられている凶器としか思えず。
美しい理知的な顔立ちは、純粋な神聖さよりも残忍さを五割増し。
これは完全に"魔王"属性なり!!
天使な淫魔は、逃げたいなり!!
「カムバックピュアピュア!! 卑猥な魔王の呪いでお眠り中なら、速攻起きるべし!! ヘルプ、ピュアピュア!!」
「呪いの眠りから目覚めさせるには、定番が筋だろう、王子サマ」
指先で上げられたあたしの顎。
すっと傾いて近づいてくるモモちゃんの顔。
そしてモモちゃんの口が、
「ひっ、ひぃぃぃぃっ!!」
あたしの鼻に噛みついた。
歯で、がぶりと。
まるで野生児ハル兄のように、容赦なく。
モモちゃんが。
高いIQで理知的なところと、ピュアピュアをウリにしていたモモちゃんが、とうとう肉食サバンナの帝王の舎弟として目覚めてしまった!?
「あたしの鼻になにするねん!! さらにブチャイクになって、お嫁に行けなくなったらどないするねん!!」
すると悪びれた様子もなく、悠然とモモちゃんが笑う。
「それくらいで相手がいなくなるというのなら、何度でも形なくなるほど、誰もが避けるほど醜悪に噛み砕いてやる」
「な、なんですと!?」
「そして――」
モモちゃんは含んだような笑みに妖艶さを混ぜた。
「傷物にした責任は、俺がきっちりとって面倒をみてやる」
それは、求婚――
「波瑠さんに習って、あんたのおむつを替えてやるし、うまい流動食も作ってやる。徘徊には一緒に"散歩"してやる。だから老後は心配するな」
……に見せかけた、介護宣言。
「年寄扱いするな――!!」
憤って、モモちゃんの胸を叩くあたしは気づかない。
「それくらいのことをしても、ナツや波瑠さんが、あんたの相手に…俺を認めてはくれないだろうけど……」
どこか儚げに目を伏せて、小さな声で呟くモモちゃんに。