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目が覚めたら。
第10章 変態王子様のご褒美
研究所の内部はふかふかな濃灰色の絨毯に覆われ、どこも無駄な作りを一切省いた、よく言えばスタイリッシュ、悪く言えば殺伐とした……そんな近未来的な雰囲気漂う無機質な空間だった。
映画とかでロケに使われそうなこの研究所、無表情の受付嬢ひとり座っている以外、すれ違う人達もいない。
「ここにユリいるの?」
「どうだろう。ちょっと聞いてみる。そこに座ってて」
帝王ホテルのラウンジのような、高級な雰囲気だ。
ふかふかな椅子に座れば、思いきり沈んだ後にぼよんと横に弾き飛ばされた。
なにこれ、恐い。
椅子恐怖症になっているあたしは、立っていることにした。
「ユリ姉は少し前に帰ったばかりだそうだ」
戻って来たモモちゃんは、小さく笑った。
「残念。ずっとユリと会えてもないし電話も繋がらないし。あたし嫌われてないよね?」
「いつもあんたの様子はどうかと気にして、落ち着いたら会いたいと言ってる。俺が間にいるから、ユリ姉も焦っていないだけだ。今は時機が会わないだけ、気に病む要素はなにもない」
弟が断言してくれれば、あたしも心強い。
「ふふふ、弟とはこんな会ってるのにね。モモちゃんといるの半分にしたら、ユリと会えるのかな」
そう冗談で言ったら、
「……姉弟であんたと会う時間をシェアしないといけないのなら。それならあんたはずっとユリ姉とは会えない」
モモちゃんは痛いくらいに真摯な目を向けてくる。
「――ユリ姉相手なら、俺は、絶対譲らないから」
ユリ"なら"。
だったら――。
誰だったら譲るというのだろうか、モモちゃんとあたしのふたりの時間を。
あたしは答えがわかっている。
だけど、その答えは口からは出て来なかった。
なんだか切なくなってくる。
なにかを訴えてくる哀切なモモちゃんの目が見れなくて。
俯いてしまったあたしに気づいたのか、モモちゃんのやけに上擦ったような焦った声が聞こえた。
「冗談だ。ほら行くぞ」
何事もなかったかのようにモモちゃんは笑って歩き出す。
あたしは、横に並ばずにモモちゃんの後ろについて行った。それに対して前にいるモモちゃんは、大きなため息をひとつついた後、なにも言わずに歩き出した。