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目が覚めたら。
第10章 変態王子様のご褒美
 

 後味悪く切れてしまったスマホ。

 かけ直す勇気があたしにはない。休憩終わったから迷惑だよねと、常識人ぶって、心の痛みを見ないふりをする。


 ねぇハル兄――。

 あたしが眠りにつく前、あたしをビッチと呼んだくせに、なんでナツに抱かれろなんて言うの?


 それなのに、そんなに切なそうな声音で。

 戻らねば奪うなんて、どうして言い出すの?


 まるでナツに抱かれるなと言っているかのようで。

 まるでハル兄があたしの戻りを一途に待っているようで。


 健気なのはナツであって、ハル兄ではないでしょう?



 なにが建前?

 なにが本心?


 矛盾だらけの傍若無人の帝王から、そんなこと言われたら……、あたしはナツを相手に出来なくなるじゃない。ハル兄の言葉が気になってしまうじゃない。ハル兄の心を知りたいと思ってしまうじゃない。


 捨て台詞は――卑怯だ。



「ううっ……」


 衝動のように込み上げてくるのは、理不尽な切り方をして声を絶ち、ここにいない残像を求めさせた……、ハル兄に対する怒りか悲哀か、振り回される悔しさか。


「……ぐすっ」


 嬉しいなんて思ってない。だから目から流れるこの涙は、感涙なんかじゃない。絶対に。



 カラカラカラ……。


 トイレットペーパーを回して、長く長く引き出して。それをぶちりと千切って、濡れた目を拭う。嗚咽が漏れそうになって、それも口に抑えた時、一瞬この……グレイ色の色合いをしたペーパーが、綺麗なものなのか不安になったけど、気にしないで出てくるものを止め、便器に捨てる。



 カラカラカラ……。



――肝に銘じておけ。


「ぐすすっ」



 カラカラカラ……。


 引き出すトイレットペーパーと共に涙も止まらない。

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