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目が覚めたら。
第11章 鬼畜帝王が甘えました
そして――。
「しーちゃああああん!!」
ハリウッド映画顔負けの、派手な別れのシーンが、目の前に繰り広げられている。
まるであたしは、客観視を強いられる監督気分。
カメラ、照明、主役のアップの角度よーーし!!
「しーーーちゃあーあああん!!」
いいねぇいいねぇ、その悲哀の表情!!
しーちゃんぞくぞくしちゃうねぇ!
……衆人環視の中、注目を浴びている主役は、勿論あたしじゃない。
場所はホテルの外、エントランスの車寄せの部分。
そう、一番人の動きが激しい場所にて、ピカピカに磨かれたホテルのエントランスのガラスの壁を背に、帰り支度を既にすませたあたしとモモちゃんは、荷物を足元に置いて、地味な脇役そのAとBに徹して立っている。
主役は――
難関大学在学中の、現役モデル。
兄譲りのクールな表情と獣みたいな目で、挑発とかしちゃうポスター撮らせるくせに、今では両目から大粒の涙をぼたぼたと落している。
普通に微笑めば、甘い甘い夢の王子様。……端から見れば、ナツが女子力高い変態さんだということはわからないだろう。
「しぃぃちゃあああん、またねぇぇぇ!!」
余程、別れが悲しいのだろう。
緩やかに動き出した……ピッカピカの黒塗りの自動車の後部座席から、上半身を完全に外に出して、大きく大きく、小さくなってもさらに大きく、あたし達に手を振った。
「下のお口さぁぁん、またねぇぇぇぇ!! 今度は一番奥までお邪魔するから、僕と一緒に、イこうねぇぇぇぇぇ!!」
大きな声で、涙混じりに訴えたその願いはきっと切実なのだろう。意味がわかれば卑猥だが、聞き様によっては、下野小口しーちゃんと再会を願っているようにも思えるこの不思議。
彼がこの施設やホテルで、どれだけ期待値を高めていたのかがわかるだけに、成果ないまま去らねばならないナツの多大な悲しみに、思わず貰い泣きしてしまう。