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目が覚めたら。
第11章 鬼畜帝王が甘えました
「ハル兄!? なんで、仕事は!?」
「休暇中だ」
そう言うと、含んだような目をしながら、にやりと笑う。
精悍な喉もとだけではなく、セクシーな胸元が見える程度に開けられた白いシャツ。きっちりとしたお医者様用ではなく無造作に下ろされている黒髪が、やけに色っぽくてあたしの心にきゅん……なんてするはずもなく。
あたしの頭は、なぜここに帝王様が来ているのか、その謎にプチパニックになった。
二度の電話で、ここに来ると言っていただろうか。
――……ナツに抱かれて戻ってこないのなら、俺はお前を奪いに行く。……肝に銘じておけ。
途端、心臓が締め付けられるような感覚が蘇り、あたしは慌ててぶんぶんと頭を横に振った。
ナツに抱かれてもいないし、戻ってこないつもりだったのではなく。
じゃあなんで?
「なんでハル兄が、このピンチに現れるの!?」
「俺様だからだ」
超然とした笑みを顔に浮かべる帝王は、その不遜で意味不明な言葉の内容は別にして、存在だけで格の違いを見せつける。
「へ、へ!?」
愚民はそんな帝王を前にして、馬鹿丸出しの声しか出すことが出来ず。そしてそんな声は、この世から不要というかのように、他の場所から相次いで聞こえてくるエンジンのかかる音で上書きされていく。
まさか、相手も車に乗ったの!?
エンジンがかかった爆走車が、四方からこの車目がけて走ってくるのが見えた。
「ハル兄、ここから抜けなきゃ!! 出口はどこ!?」
「まったく、人の休暇を……」
ハル兄がシフトレバーをがちゃがちゃと動かすと、突然車がバックしていく。恐らくあたしが乗り込んだ車は、帝王印の高級スポーツカーなのだろう。いつものふたり乗りのタイプの車ではなさそうだけれど、そのバックする速度とマフラーの音が尋常ではない。
まるで後ろ向きに動くジェットコースターに乗っている気分だ。