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目が覚めたら。
第11章 鬼畜帝王が甘えました
 

「「マセラティのクアトロポルテ GT S!」」


 モモちゃんとハル兄が同時に言った。

 同時だったからか、モモちゃん嬉しそうに口元を緩めている。どれだけサバンナの帝王が大好きなんだ、このバトラーは。


「……似てるじゃん」


「まるで似てねぇよ! 耳鼻科紹介してやるから行け! あ、脳神経外科の方がいいか、そのアホタレを直すには」


 なんて失礼な!

 それを口にしないところは、愚民の知恵である。

 反論して効果があったためしがない。

 
 何台、車をもっているのか知らないけれど、どうしてハル兄、覚えにくい変なカタカナの車ばっかりのを買うのだろう。あたしへの嫌がらせだろうか。

 あたし、ベンツとBMWなら知っているのに、どうしてそういう有名どころではなく、わざわざマイナー路線に走るのだろう?

 思わず独りごちたら、


「……放り出す」


 猛速度で移動中、運転席側から操作してあたしの横の窓を開けたハル兄。後ろに片手を伸ばして、対角線上のあたしを本気で捕まえようとしてきたから、強風に髪をばさばさにさせつつ、あたしは慌てて失言を謝った。


「無知でごめんなさい、ハル兄の車のセンスは最高です!」


 この男、どんな非常識なことでも実行する。

 命懸けの謝罪をしたが、反応がない。


「……ハル兄も最高!! 車以上に格好いい!」


 苦し紛れの称賛を付加したら、自動的に窓がしめられた。帝王様のご機嫌が直ったらしい。


「マイナーと思うのはあんただけだけだぞ」


 モモちゃんからこっそりと言われたけれど、なにがマイナーでメジャーなのか、12年後の車事情はあたしにはよくわからない。


「この車、1000万以上するんだぞ」


 1000万以上!


 おみそれしましたと、あたしは頭を深々と下げた。

 庶民が価値を知るのは、いつの時代も金である。



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