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目が覚めたら。
第11章 鬼畜帝王が甘えました
「……随分とあいつと仲良くなったな」
あたしが車内に身を戻して窓を閉じた時、ハル兄の声がした。
「うん! 第一印象は最悪のクソメガネだったけれど、知れば知るほどモモちゃんはイイ子で、大好きになっちゃった!」
ハル兄はモモちゃんを可愛がっているのがよくわかったし、ハル兄に共感して貰えると思い、素直に答えながら、シートベルトをつける。
「……へぇぇぇ? ほぉぉぉ?」
……同じ抑揚の変な声がした。同時に、横からぶわりと広がる…底冷えしそうな凍てついたオーラ。あたしの背筋に、悪寒がざわざわと這いまわる。
これは、怒、だ。
なに!?
どこが帝王様のお怒りポイント!?
愚民、危機を感知して帝王様から逃げる。
……が、シートベルトで動けない。シートベルトを外そうとしたが、あたしの震える手は、カチャカチャと音をたてるだけだ。
「大好き、ねぇ? "モモちゃん"と、随分仲良しになったなぁ、シズ。よかったなあ、それはよかった。拍手してやる」
ハル兄がハンドルから両手を離して、やる気無い拍手をパンパンとした瞬間、ヴォンと音がして車が猛速度で走り始めた。
「うわあああ、スピード出し過ぎ!! ハル兄ハンドルを握って!! 危ないから……前前前! ぎゃあああ! 信号、信号変わる変わる!! ハル兄、ハル兄、ここ高速じゃないんだから、うわ、前トラックトラック!!」
……恐らく、ハル兄のドライビングテクニックは、かなりの腕前なのだろう。それは駐車場の件から、いやいやこんな暴走車で今まで警察に捕まったことがないことだけで十分わかる。
わかるから、もうあたしに体感させないで!!
目覚めたばかりの淫魔を労(いたわ)って!!
あたしは安心して車に乗りたいの!!
「ハル兄ハル兄、ハル兄――っ!!」
最後には、シートに仰け反ったまま硬直し、だたひたすら…ハル兄の名前ばかりを連呼して叫ぶあたしを、ハル兄が小さく…満足気に笑ったことには、気づく余裕はなかった。