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目が覚めたら。
第11章 鬼畜帝王が甘えました
あたしを絶叫させたまま数十分。
車は東京都内から遠ざかって走って行った。
鎌倉の看板が見えたあたりでは、あたしの声は掠れきって出て来ない。
カスカスしか出ない声では会話にならず、あたしの声をこんなにした元凶が、道脇にあった自動販売機でお水のペットボトルを買ってくれて、なんとかあたしに声が戻った。
こういう優しさがあるのなら、どうしてあんな無謀な走りをして声を枯れさせることをするのか、あたしには理解出来ない。
ともかく、100円の命の水であたしは生き返り、そしてハル兄がようやく安全運転をしてくれて、心身共になんとか余裕が戻った。
「何処に行くの?」
まだ少しハスキーな声だ。時間がたてば直るだろう。
「葉山」
開けた窓に左肘を置き、気怠げに右手でハンドルを持つハル兄。
「はい? あたしがなに?」
「葉山に行く」
葉山とはあたしの苗字ではなく、地名だったらしい。
だが同じ名前があったとしても、そこがどこなのかよくわからない。
「鎌倉の先、逗子の近く」
そう言われても、逗子がどこにあるのかわからないあたしに、ハル兄は疲れたようなため息をつく。
「お前、関東に住んでいるんだろう?」
「え、よくテレビとかで聞く逗子って関東圏内なの!? 12年の間に変わったの!?」
ハル兄が思いきりアクセルを踏み込んだようだ。
開いている窓から、凄まじい強風が吹き込み、あたしの頬肉をぶるぶる震わせる。
「ひぃぃぃぃぃっ、関東です、はいっ、12年前から関東圏内です!」
ごめんなさいを付け加えると、車は人並みの速度に戻った。
ハル兄怖いよ…。可愛い淫魔を虐めないでよ…。