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目が覚めたら。
第11章 鬼畜帝王が甘えました
 

 あたしの手を握ったまま運転するハル兄は、なぜか顰めっ面で無口になってしまったが、途轍もなく大きなお屋敷が見えて呆然と眺めているあたしに、そこは天皇陛下ら皇族の別荘である御用邸だという説明をしてくれた。

 ここ葉山は温泉の地だという。別荘と言えば軽井沢くらいしか思えないあたしにとって、東京から近い場所に温泉があり御用邸もあるということが驚きだ。景観はいいとは思うけれど。

 ここが温泉街というのなら、きっと御用邸の近くにある建物は、温泉が出る宿泊施設に違いない。


 だとしたら、静寂そうなここら付近に、あたし達が泊まる旅館があるのかなと思っていたら、車はここ一帯を抜けて、鬱蒼とした樹木が広がる森林のような場所に入っていった。

 舗装された道路があるということは、この大自然は故意的に残されたものなのだろう。見た目京都の竹林のような場所が、東京の近くにあるということは、御用邸の次に驚いたものだった。


 ゆがて景色は、整然とした人工的な手入れが施され、閑寂とした日本庭園風な趣のものへと変わった。緩やかに蛇行する道に沿えば突き当たりに、純和風の建物が出て来る。

 それは黒い瓦が屋根となった二階建ての建物であり、なんだか時代劇に出てくる旅籠のような古さを感じた。

 それでも間近になるに従って、かなりの面積を持つ大きい建物であり、その古さがまた、由緒正しいお屋敷がもつ荘厳さのような威圧感を強めているのに気づき、門前払いを食らいそうな庶民はびびる。


「ハル兄、ここに泊まるの?」

「ああ」


 洋風の帝王ホテルに続き、和風の旅館も豪華すぎて居たたまれなくなる。どうしてチョイスがこんなに超高級旅館になるのか、ハル兄の感覚がよくわからない。

 帝王様は、一般人とは違う金銭感覚なんだろうか。その割には、あたしの修学旅行のお土産のマグカップを、長く使ってくれている。ハル兄の感覚がよくわからない。
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