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目が覚めたら。
第11章 鬼畜帝王が甘えました
ちょっと洋風な趣ある内装も豪奢だった。
ワイン色の絨毯の上に置かれている調度品も、どこか長い年月を感じさせるレトロのものではあるけれど、重厚感と存在感がある。金ぴかばかりが高級品ではないことを証明しているようだ。
ステンドグラスのような色のついたガラスで作られた、お花の形をした電笠の照明や、花瓶に飾られている生け花にしても、芸術センスの欠片もないこんなズブのド素人でも、曲線や彩りのひとつひとつが高級旅館の気品をあげているような芸術性を感じるのだ。
写メ撮りたい!!
一度はトイレのウォシュレット騒ぎで、トイレで水浸しになったまま放置していたらしいあたしのスマホ。それをあたしが眠っている間に発見してくれたモモちゃん曰く、防水が強い機種だったから、なんとか無事だったらしい。
庶民とは無縁のこんな旅館、もう二度と来れないだろうからと、ミーハー根性でひたすら写メをしていたあたしだったが、ハル兄の姿が遠くになってしまっていることに気づき、慌ててフロントのような場所に立っているハル兄の元に行った。
ハル兄に対応しているのは、『支配人』と書かれた名札を胸につけている初老の男性だった。ひたすら笑顔で平身低頭、愚民の鑑だ。
ハル兄はチェックインのサインを求められ、縦長の和紙みたいなものに、渡されたサインペンで名前や住所を書いている。
筆でなくともハル兄は達筆で、元気で豪快というよりは、こじんまりと流麗にまとめられた繊細な文字だ。非常識のカタマリなようなこの男は、書く文字が性格をまるで表さない、希有な存在だと改めて思う。
その横にあたしの丸みを帯びた文字を書くのは少し恥ずかしいな…など思いながら、書き終えたハル兄からボールペンを手渡されるのを待っていたのだが、ちょっと躊躇いを見せた後、ハル兄はあたしの名前を隣に書いてくれた。ハル兄が書けば、静流も輝いて見える。
だが――。
「!!?」
あたしの名前は『葉山静流』ではなく、姓のないただの『静流』になっていて、ハル兄と同じ佐伯姓の連名に見えてしまう。しかも住所も『同右』。
「ちょ、ハル兄……っ」
これだったら――。