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目が覚めたら。
第11章 鬼畜帝王が甘えました
 
 

 至近距離に熱い瞳がある。



 ハル兄の頬に伝わり落ちたのは、湯の滴なのか汗なのか。

 流れて精悍な首筋に落ちる。


 ハル兄はなにも言わない。なにもしない。


 こんなに近くで唇を止めて、目だけであたしを支配しようとする。


 熱くてたまらないこの湯の中で、ハル兄の熱さにやられて目が潤んでしまう。いやもう、ハル兄がいた時点であたしの目は潤んでいたのかもしれない。


 一直線に見つめる瞳が、湯気を映してゆらゆら揺れている。

 あたしも同調して一緒に揺れよと、妖しく誘っている。


 息苦しくて、あたしは唇を半開きにして口呼吸に切り替えた。

 ハル兄が熱さで霞んだようで、目を懲らした。


 中途半端に近い距離。

 ハル兄の首筋に回されたあたしの手は、つっかえ棒になったように動かず、ハル兄があたしになにを求めて動きを止めているのかわからない。


 いつも強引なくせに、奇妙なところであたしの動向をうかがう。


 ねぇ、あたしになにをもとめているの?

 なにをしたいの?


 そう聞けばわかるはずなのに、ハル兄の瞳に吸い込まれたように、あたしは喋ることすらできず、ハル兄の男を感じて頭をぐらつかせた。


「……シズ」


 苛立ったような艶やかな声。


「お前は、淫魔がなければ、俺は必要ないのか?」


 帝王の思考はよくわからない。


 目覚めてからもあたしは、ハル兄に頼り切っている。

 温泉施設にいた時だって、ハル兄に電話をするほど、頼っていたのに。


「頼ってるよ? 昔も今も。気づかなかった?」


 声が熱さに掠れた。


「頼るなんて、ナツでもサクラでも出来るだろ。そうじゃなくて、お前は俺が欲しくねぇのかってことだ」

「え?」

 昔から、誰も手に入れられない帝王は、あたしにハーレムに入れとでも言っているのか。

 熱さにくらくらしながら、あたしはハル兄を睨む。するとハル兄はこくりと唾を飲み込み、のど仏を上下に動かした。
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