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目が覚めたら。
第12章 鬼畜帝王が考えました
その二年後にまたあたしは代表に選ばれたのだが、ハジメテは終わったからハル兄には告げなかった。
しかし、ハル兄は当日制服姿で駆け込んできた。それにとどまらず、つかつかと壇上まで歩み、今まさに鍵盤に手を置こうとしていたあたしを見て、言ったんだ。
――よし、シズ! 俺様もきらきら星、一緒に弾くぞ!
あろうことか、あたしのママがハル兄に、あたしが「きらきら星」を演奏することを教えていたらしい。
――一緒だぞ、一緒。俺に合せろよ。よし、お前は左手の人差し指で弾くことを許す。
ハル兄は、パイプ椅子まで持参して、あたしの右隣に座って、あたしと一緒に、同じ旋律を連弾しようと満面の笑みを見せた。
このコンクールに向けて、一生懸命練習してきた「きらきら星」は、ハル兄が右手の人差し指で「ドドソソララソ…」など白鍵を弾くだけの簡単なものではない。
「きらきら星変奏曲」という、あのメロディーを弾きながらも、凄まじい早さで、白鍵黒鍵問わずに怒濤のように両手を動かさないといけない、難曲中の難曲なのだ。
これを弾けるようになるまで、あたしはママと頑張った。現実に小学1年生でも弾いている女の子がいるんだから、四年生のあたしが弾けないはずはないと。
あたしが意気込んでいたコンクールは、招かれざる帝王によって、コンサートホールに突如帝王ルールが発動し、密かに優勝を狙っていたあたしは、辿々しいきらきら星を左手の人差し指でハル兄と一緒に弾く羽目になった。
――おお、俺様もお前と弾いてるんだぞ!
なにが嬉しいのか、ひたすらきらきら星を人差し指で弾いていたコンクール。ヤジが飛ぼうが、アナウンスが入ろうが、警備員が来ようがなんのその。どこまでもマイワールド、サバンナでの獰猛な獣の調教にあたしは連れられたようだ。