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目が覚めたら。
第12章 鬼畜帝王が考えました
 


――楽しいだろう、シズ。この曲は、俺がお前に子守歌で歌ってやったんだぞ! 歌詞は「きらきら光る お空の星よ……」


 ハル兄は歌い出した。それがチャラ男のナリにしてはとても上手かった。どこかで拍手が送られ、にやりと笑ったハル兄はさらに美声を轟かせた。

 だったら愚民も応援しなくては!!


 本来あたしが弾く予定だった「きらきら星変奏曲」で波のように移動する難しい左手を、ハル兄の主旋律に合せてちょっと弾いてみると。


――お前、余計なことをしなくていいんだ! 俺と一緒のを弾け! なんでお前は俺と違う方に進んでいくよ、同じだろ!?


 ハル兄の左手拳骨を頭にくらう。


 かの有名な天才音楽家モーツァルトさん、ごめんなさい。帝王が怖いので、余計なことを一切省きます。


――シズ、ほらお前のお袋がカメラ向けてるぞ、チーズ!!


 ……それからあたしはコンクールに選出されることはなく、恥をかかせられた先生があたしに冷たくあたるようになりやめてしまったが、ピアノを弾いていた時のハル兄の笑顔を思い出すと、強くは言えない。


 ただ、なんでコンクール終わった後の家のピアノではいけなかったのか、よくわからない。わざわざコンクールに乗り込んで、他の人もたくさんいるコンクールをぶち壊す必要があったのか。

 
 もしや優勝者は、あたしが当時憧れていた、あたしよりふたつ年上の天才ピアニストの神林くんと握手できることを、邪魔しようとしていたとか? ……依然それは謎のまま。


 ハル兄はこうと決めたら、それは捻じ曲げないのだ。それは、脇道を笑顔で進んでいくナツと同じ。……似たもの兄弟。


 そのハル兄が、たかが夕食如きに悩むはずがない。今度は時間まで悩み始めたようだ。


 とにかく生きた心地しないから、仲居さんを外に出してよ!!


「六時ならあと三十分だな。シズ、七時にしてもう一発するか?」


 ハル兄、仲居さんが見ている前で、いやらしくおしりなでなでしないでいいから!
 
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