パソコンから！ケータイから！スマホから！無料でどこでも気軽に楽しめる官能小説サイト

第19章 キズ

「でも私も嫌だ……っ、麻人がこんな目に遭うのやだよっ」

　直接その場面を目撃したわけじゃないけど、首と手首の痕を見るだけで、どれだけ酷いことをされたのかわかってしまった。なんでもないことなわけない。

「心配なの……、このままじゃ、麻人だって壊れちゃうよ……っ」

　私の二の腕を掴んでいた手が緩む。壁に押しつけられていた体が離れ、足がもつれてよろけそうになった。なんとか踏みとどまり、麻人の頭を抱きしめる。
　今度は抵抗されなかった。かすかに聞こえるすすり泣き。

「このまま病院で、少しだけ診てもらお？　大丈夫、きっとお母さん、ちゃんと自分を取り戻せる……」

　根拠はない。だけど愛する人と離ればなれになるとてつもない寂しさは、少しだけ理解できる。
　麻人の母親が運ばれた連絡は、姉や父親にも行くはずだ。家族みんなが母親の現状を知ることになる。

「もう独りで頑張んなくていいよ、麻人」

　私は麻人の頭を、撫でた。繰り返し、何度も。
　ふいに麻人の体が沈みこみ、引きずられるようにして、私もしゃがんで膝をついた。