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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第8章 第二話・参

いかにも初夏らしい爽やかな光景を眩しげに見つめ、お民は小さな声で応える。
「当たり前じゃありませんか。お前さんと私の間に隠し事なんて、しっこなし」
「そうか、なら、良いんだ」
源治が屈託のない声で言い、うーんと声を出して伸びをした。
「そろそろ梅雨に入るかな。また雨続きの鬱陶しい日が続くと思うと、ちと気が滅入るな」
源治もまた乱反射する川の面を眼を細めて見つめている。
「さて、帰るとするか」
先に立ち上がり、踵を返した良人の背がこの時、お民には何故かひどく遠く感じられた。
「―ねえ、お前さん」
こんなに近くにいるのに、あの人の背中が遠い。
お民は焦りにも似た気持ちを憶え、狼狽えた。
今、呼び止めねば、源治が永遠に手の届かない遠い場所に行ってしまうようで。
「ん、どうした?」
源治が首だけねじ曲げた恰好で振り返った。
「ごめんなさい、何でもありません」
いつもと変わらぬ穏やかな良人の表情に、お民は泣きたくなった。
「変な奴だな」
源治は笑うと、先に立って歩き始め、お民も慌ててその後を追った。
「当たり前じゃありませんか。お前さんと私の間に隠し事なんて、しっこなし」
「そうか、なら、良いんだ」
源治が屈託のない声で言い、うーんと声を出して伸びをした。
「そろそろ梅雨に入るかな。また雨続きの鬱陶しい日が続くと思うと、ちと気が滅入るな」
源治もまた乱反射する川の面を眼を細めて見つめている。
「さて、帰るとするか」
先に立ち上がり、踵を返した良人の背がこの時、お民には何故かひどく遠く感じられた。
「―ねえ、お前さん」
こんなに近くにいるのに、あの人の背中が遠い。
お民は焦りにも似た気持ちを憶え、狼狽えた。
今、呼び止めねば、源治が永遠に手の届かない遠い場所に行ってしまうようで。
「ん、どうした?」
源治が首だけねじ曲げた恰好で振り返った。
「ごめんなさい、何でもありません」
いつもと変わらぬ穏やかな良人の表情に、お民は泣きたくなった。
「変な奴だな」
源治は笑うと、先に立って歩き始め、お民も慌ててその後を追った。

