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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第8章 第二話・参
 昼下がり、川面で短いやりとりを交わしたその日。源治は夕刻になって、いつもよりは少し早めに徳平店に帰ってきた。
「帰ったぞ」
 声高に叫んで勢いよく腰高を開けたのまでは良かったが、狭い家の中はがらんとして、お民の姿はなかった。その刹那、源治は厭な胸騒ぎを感じた。
 が、幾ら何でも、幼児ではあるまいし、一人で出かけて迷子になるはずもない。大方、近所に買い物にでも出かけたかと思い、自分で脚をすすぎ、畳に上がった。
 しかし、幾ら待っても、お民は帰ってこない。一刻が経ち、流石に源治も焦った。
 こんなときは、いやでも三月前の事件が脳裡をよぎる。よもやまた石澤嘉門に連れ去られたかと危惧するが、聡いお民のことだ、何度も同じことになるとは思えない。十分に用心して行動しているだろう。
 それでも、嘉門に拉致されたという可能性も棄てきれない。檻の中の熊のように所在なげにうろうろと狭い家の中を往復した挙げ句、源治はお民が行きそうな場所を一つ、思い出した。
 花ふく、だ―。
 思い立つと矢も楯もたまらず、源治は陽が落ちてすっかり暗くなった町に飛び出した。
 主人の岩次はまだお伊勢参りに出かけて留守だが、女房のおしまが留守を守っているはずである。
 〝花ふく〟と描かれた掛行灯が夜陰にぼんやりと滲んでいる。休店中のため、暖簾は出ていない。
「おかみさん、おかみさん」
 忙しなく戸を叩くと、内側から閂の外れる音がし、板戸が細く開いた。
「あれま、源治さんじゃないの」
 五十半ばのおしまは、どう見ても四十代にしか見えない。福々した顔はどう見ても美人とは言い難いが、不思議な愛敬がある。
「夜分に申し訳ありやせんが、うちの奴がお邪魔してませんかね」
 口早に訊ねると、おしまは首を振った。
「いいえ、お民さんなら、今日は一度も顔を見てませんよ。どうしたの、喧嘩でもしたんですか?」
「いや、喧嘩をしたんなら、あいつが怒って飛び出しちまったって判るんですが、何分、情けねえ話ですが、心当たりもなくて」
 源治が頭をかきながら言うと、おしまは、はたと思いついたように言った。
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