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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第10章 第三話・壱
     【壱】

 やわらかな風に乗って、ほのかな香りが運ばれてきた。花の香りには相違ないが、一体何の香りだろうと、お民は確かめるようにゆるりと首をめぐらせてみる。見渡す限りには、そのような芳香を撒き散らすような花も樹も見当たらないのは当然のことなのに、何故かがっかりするような気持ちになった。
 ここは江戸は町人町の一角、一膳飯屋〝花ふく〟の前である。
 お民はこの場所からそう遠くない徳平店に良人や子どもたちと暮らしている。徳平店は初代の大家の名前を取っていまだにそう呼ばれている。要するに、江戸の町のどこにでも見かけるような粗末な棟割り長屋である。
 お民はこの裏店に暮らし始めて、もう十二年を数える。最初の良人兵助がここの住人で、兵助の許に嫁いできた十五の歳からずっと徳平店にいるのだ。兵助は腕の良い大工で、二人の間には兵太という倅にも恵まれたが、兵太は五つのときに近くの川に落ちて亡くなり、その一年後、兵助も伜の後を追うように持病の心臓発作で逝った。
 その後、かねてから気の置けない間柄であった斜向かいの源治とわりない仲になり、兵助の一周忌の法要を済ませたのを区切りに晴れて所帯を持った。源治は当時、二十一で、お民よりは二つ下であった。
 二人はその日暮らしながらも、夫婦水入らずの幸せな日々を紡いでいたのだが、ある日、お民が直参旗本石澤嘉門に見初められたことから、思わぬ不幸に巻き込まれることになる。
 その頃、お民は手内職を探していて、口入れ屋の三門屋に造花作りの仕事を紹介して貰っていた。十日に一度ほど、作った造花を持って三門屋を訪ねるのが日課であったのだが、丁度、三門屋を訪ねていた石澤嘉門とお民が出逢ってしまったのである。
 嘉門はお民にひとめ惚れをし、三門屋に何とかお民を手に入れられぬものかと相談を持ちかけた。三門屋は相応の礼金と引き替えに、お民を嘉門のものにするための知恵を授けた。そのことで、お民は嘉門の許で一年間、妾奉公をする羽目になった。
 お民は嘉門の望んだとおり、嘉門の子を懐妊したが、あえなく流産、一年の年季が明ける前に暇を出されて源治の許に帰ってきた。
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