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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第10章 第三話・壱
 だが―。不幸はそれだけでは終わらなかった。やがて、源治と再び穏やかな日々を過ごし始めたお民の前に、嘉門が現れ、執拗につきまとうようになったのだ。お民は嘉門にかどわかされ、随明寺近くの出合茶屋に連れ込まれた。手籠めにされてしまったお民はあろうことか再度、嘉門の子を懐妊してしまう。
 失意と絶望の中、お民は源治に申し訳なくて、自分から身を退こうと姿を消してしまった。江戸から遠く離れた螢ヶ池村で隠棲していたお民は、人知れず子を生み、一人で育てようとしていた。そんなところに、源治が迎えにきて、二人は鄙びた農村で共に暮らし始める。
 そして、あれから二年。その間に、お民はあの村で無事出産を終え、二人の子の母となった。子どもが一歳を迎える直前に、源治はお民と二人の子どもたちを連れ、懐かしい江戸の地を踏んだ。
 江戸に帰ってきて、そろそろ一年になろうとしている。お民の生んだのは何と、双子の男の子であった。生まれたのが双子であると知った時、源治は躍り上がらんばかりに歓んだ。
―道理で、お前の腹がはち切れそうなほど大きいはずだぜ。まさか、一度に二人の子の父親になるたァ、流石に俺も考えていなかったよ。
 確かに、お民の腹は八ヵ月に入る辺りから、急速に大きくなったが、その頃に既に臨月並の大きさであった。
 村には産婆はいない。出産もすべて一人でしなければならず、現実には産気づいたと聞き、近隣のやはり出産経験のある年配の女たちが駆けつけてはくれたものの、皆、素人であることに変わりはなかった。
 数日遅れて始まった陣痛は徐々に強くはなっていったものの、肝心の赤児は一向に生まれる気配はなかった。このままでは、児が生まれる前に、お民の身体が参ってしまうと見守る女たちが案じていたところ、漸く四日めの朝に双子が生まれた。
 まさに、三日がかりの難産であった。
―あれま、もう一人生まれるみたいだよ。
 先に生まれた赤児を抱き取り、甲斐甲斐しく産湯につけたりする女がいる傍らで、産褥のお民を見守っていた別の女が素っ頓狂な声を上げた。
―お民さん、もうひと踏んばりしなきゃ駄目なようだね。
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