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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第10章 第三話・壱
鳴戸屋の庭の方から、濃厚に流れてくる花の匂い。
この匂いは、金木犀。
秋になると、黄色い小さな花をいっぱいにつけ、黄金色(きんいろ)に染まった真綿をこんもりと被せたように見える花。
お民は小さく息を吸い込む。不安と絶望でどす黒く染まった心に、一幅の清らかな風が吹き込んできたような気がする。
松之助を背負い、龍之助を花ふくの前で遊ばせている時、風に乗って運ばれてきたのは、この金木犀の香りだったのだろう。
お民はまだ愚図る松之助をあやしながら、力ない脚取りで帰り道を辿り始めた。
今、ここでむやみに龍之助を捜し回っても、見つけることはできないと判断したからだ。
―龍之助、一体、今、どうしているの?
お民は心の中で連れ去られた我が子に呼びかける。
また風が吹いて、お民の傍を風に乗って花の香りが流れ過ぎていった。
華やかな中にも物寂しさを感じさせるような花の姿を、お民は思い浮かべていた。
この匂いは、金木犀。
秋になると、黄色い小さな花をいっぱいにつけ、黄金色(きんいろ)に染まった真綿をこんもりと被せたように見える花。
お民は小さく息を吸い込む。不安と絶望でどす黒く染まった心に、一幅の清らかな風が吹き込んできたような気がする。
松之助を背負い、龍之助を花ふくの前で遊ばせている時、風に乗って運ばれてきたのは、この金木犀の香りだったのだろう。
お民はまだ愚図る松之助をあやしながら、力ない脚取りで帰り道を辿り始めた。
今、ここでむやみに龍之助を捜し回っても、見つけることはできないと判断したからだ。
―龍之助、一体、今、どうしているの?
お民は心の中で連れ去られた我が子に呼びかける。
また風が吹いて、お民の傍を風に乗って花の香りが流れ過ぎていった。
華やかな中にも物寂しさを感じさせるような花の姿を、お民は思い浮かべていた。