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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第11章 第三話・弐
「兄ちゃんは遠いところに行ってしまったんだよ」
 やっとの想いでそれだけを応えた。
 が、しばらくして更に松之助は訊ねてきた。
「もう、帰ってこないの?」
 その言葉に、お民は凍りついた。
 そう、龍之助はもう二度と帰ってはこない。
 たった一人の大切な世継がその日暮らしの裏店住まいの女を母親に持つなぞ、石澤家の人々はけして認めたくはないだろう。
 龍之助とは親子の名乗りもできないし、また、してはならないのだ。
 龍之助のことを諦めると決めたときから、それは覚悟はしていたけれど、現実に認識するのは辛いことだった。
 松之助はなおも龍之助と瓜二つの切れ長の瞳をまたたかせ、不思議そうな顔でお民を見つめていた。
 お民はそんな松之助をひしと抱きしめ、この子だけは何があっても離さないと思った。
「おっかちゃ、痛いよ」
 あまりにきつく抱きしめたため、松之助が不満そうに口を尖らせたものだ。
 龍之助も松之助も、愕くほど嘉門に似ていた。殊に涼しげな眼許は父親譲りのようだ。男の子だから実の父親に似たのかもしれない。
 源治もこのところは塞ぎがちで、以前は冗談をよく言ってはお民を笑わせていたのに、この頃はろくに口をきかない。
 ただ松之助がいてくれることが、二人にとっては大きな救いであった。
 その夜も源治は帰るなり、薄い夜具に潜り込んだ。お民はいつも昼過ぎにいったん徳平店に戻る。夕飯の支度を済ませてから、再び店に取って帰すのだ。
 その日に用意してあった夕飯には全く手が付いていなかった。お民に背を向けて横たわる良人を、お民は切なく見つめた。
 源治が龍之助を思って無口になっているのは判っているが、それでも面と向かって無視されているかのような態度を取られると、やるせなかった。
 まるで龍之助がいなくなってしまったことがお民自身の責任だと無言の中に責められているような気がしてくるのだ。
 夜半から、とうとう降り出したようだった。初めは小さかった雨音は徐々に大きくなり、直に屋根を打つ音が耳につき始めた。
 静まり返っているだけに、雨音が余計に大きく聞こえてくるようにも思え、お民は更に眠れなくなった。
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