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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第11章 第三話・弐
 何度めかの寝返りを打った時、背を向けていた源治が唐突に口を開いた。
「眠れねえのか」
「ええ」
 お民は頷いて、床の上に身を起こした。
 「風が」と言いかけ、ゆるりと頭を傾ける。
 耳を澄ませてみても、雨が降り出すまであれほど荒れ狂っていた風の音は既に止んでいた。
「風は止んだようですね」
「ああ、一時は野分か嵐になるのかと思ったがな」
 源治もまた床の上に起き上がったようだ。
「何だか風の音を聞いてたら、余計に眠れなくなっちまって」
「―」
 源治は無言だったが、お民は構わず続けた。
「風の音があの子の泣き声のように思えてならないんですよ」
「どうしてるかな、今頃」
 まるで独り言のように、ポツリと源治が洩らした。
「あの子は松之助と違って、やんちゃな割には臆病ですから、風の音に怯えて泣いたりはしていないかと心配で」
 お民が言うと、源治が小さな声で言う。
「五百石取りの殿さまの倅になったんだ。大切に育てられてるだろうよ。乳母とか誰かが始終、傍についてるんじゃねえのか」
「でも、実の母親のようなわけにはゆきませんよ」
 言ってしまってから、お民はハッとした。
「済みません。言わなくても良いことでした」
 源治はお民の気を少しでも慰めようと口にしたのに、つい逆らうようなことを言ってしまった。
「良いんだ、俺もお前の気持ちも考えねえで、余計なことを言っちまった。お前にしてみれば、自分が傍にいてやりたいのに、見も知らねえ赤の他人に龍を任せなきゃならないのは、たまらないだろうからな。悪かったよ」
 お民は微笑み、緩く首を振った。
 源治とこうやって心から素直に話し合えたのは久しぶりのような気がする。それが少しだけ嬉しかった。
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