この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第4章 四
蜘蛛がパックリと割れた大きな口を開くと、チロチロと紅い舌を出す。その舌があたかも蔓が伸びるかのように妖しく長くなる。
―いやっ。誰か、助けてっ。
銀の糸に全身を縛められたお民は、一糸まとわぬ全裸だった。
巨大な蜘蛛の紅い舌は禍々しいほど鮮やかで血の色のよう。そのちろちろと動く舌が長く伸び、お民の白い身体を舐め回す。ふくよかな胸乳から、豊かな腰、下腹部へと紅い舌が這い回る。
ペチャペチャと淫らな水音まで聞こえるような気がして、お民は思わず両眼を固く瞑った。
―俺の子を生め。
耳許で嘉門と同じ顔を持つ蜘蛛がまた、囁く。
―俺の子を生め。
二月の末、初めて臥床(ふしど)を共にしてからというもの、嘉門は毎夜、離れに通ってきた。むろん、お民を抱くためであり、お民は一晩中、嘉門の執拗な愛撫に耐えなければならなかった。
情事の後、あるいは最中に、嘉門は必ずこう囁くのだ。
―俺の子を生め、良いか、必ず、俺の子を身籠もるのだぞ。
そのひと言は今や、お民の耳に不吉な呪(まじな)い言葉のように灼きついて離れない。
「―おい、お民、お民?」
誰かがどこかで呼んでいる。
私を呼んでいるのは誰―?
お民は、かすかな希望を持ってそっと眼を開ける。
だが、次の瞬間、彼女の儚い願いは無惨に打ち砕かれる。
お民が身を横たえているのは薄くて粗末な布団ではなく、絹のふかふかの立派なものだ。
しかも、隣に寝ているのは誰より逢いたいと願う良人ではなく、あの忌まわしい―先刻、見たばかりの妖しい夢に現れた蜘蛛と全く同じ顔をした男だった。
「随分とうなされていたようだが」
お民は嘉門の傍らにゆっくりと身を起こす。何も身につけてはおらぬ裸の肩に、嘉門が背後からそっと夜着を着せかけた。
「汗びっしょりだ。こんなに濡れて」
嘉門の指摘のとおり、まだ弥生の下旬に差しかかったばかりだというのに、お民の白い身体には汗がうっすらと滲んでいた。
―いやっ。誰か、助けてっ。
銀の糸に全身を縛められたお民は、一糸まとわぬ全裸だった。
巨大な蜘蛛の紅い舌は禍々しいほど鮮やかで血の色のよう。そのちろちろと動く舌が長く伸び、お民の白い身体を舐め回す。ふくよかな胸乳から、豊かな腰、下腹部へと紅い舌が這い回る。
ペチャペチャと淫らな水音まで聞こえるような気がして、お民は思わず両眼を固く瞑った。
―俺の子を生め。
耳許で嘉門と同じ顔を持つ蜘蛛がまた、囁く。
―俺の子を生め。
二月の末、初めて臥床(ふしど)を共にしてからというもの、嘉門は毎夜、離れに通ってきた。むろん、お民を抱くためであり、お民は一晩中、嘉門の執拗な愛撫に耐えなければならなかった。
情事の後、あるいは最中に、嘉門は必ずこう囁くのだ。
―俺の子を生め、良いか、必ず、俺の子を身籠もるのだぞ。
そのひと言は今や、お民の耳に不吉な呪(まじな)い言葉のように灼きついて離れない。
「―おい、お民、お民?」
誰かがどこかで呼んでいる。
私を呼んでいるのは誰―?
お民は、かすかな希望を持ってそっと眼を開ける。
だが、次の瞬間、彼女の儚い願いは無惨に打ち砕かれる。
お民が身を横たえているのは薄くて粗末な布団ではなく、絹のふかふかの立派なものだ。
しかも、隣に寝ているのは誰より逢いたいと願う良人ではなく、あの忌まわしい―先刻、見たばかりの妖しい夢に現れた蜘蛛と全く同じ顔をした男だった。
「随分とうなされていたようだが」
お民は嘉門の傍らにゆっくりと身を起こす。何も身につけてはおらぬ裸の肩に、嘉門が背後からそっと夜着を着せかけた。
「汗びっしょりだ。こんなに濡れて」
嘉門の指摘のとおり、まだ弥生の下旬に差しかかったばかりだというのに、お民の白い身体には汗がうっすらと滲んでいた。