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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第4章 四
 乾いた音がして、お民は右頬に燃えるような痛みを感じた。
「母上! 何をなされますか。無抵抗な女にいきなり、かような乱暴な真似をなさるとは、お気でも狂われましたか」
 嘉門が咎めるように言い、咄嗟に両手をひろげてお民の前に立ちはだかった。
「嘉門どのの方こそ、そなたを生みしこの母にそこまでの辛辣極まる物言い―、どこまでその女子に血迷われてしもうたのじゃ。嘉門どの、今すぐ、その女をこの屋敷から追い出しなさい。その女は、そなたを惑わす魔性の女。そんな怖ろしき女をこの石澤の屋敷内に住まわせることはできぬ」
 嘉門がお民を庇ったことで、祥月院の怒りは余計に燃え上がったようだった。
「母上は、私がこれほど申し上げてもまだ、お民を愚弄なされるのか」
 嘉門の方も今回だけは引き下がるつもりはないらしい。
 嘉門の背後に庇われる恰好になったお民は、やっとの想いで、くずおれた身体を起こした。
 自分のせいで、これまで孝行息子であった嘉門は母に歯向かい、聞き分けの良い自慢の息子を何より誇りにしていた母は、息子を口汚く罵っている。
 全部、自分のせいだ。お民の中でやるせない哀しみが生まれた。
「あれほど大人しかった嘉門どのがそのように私に歯向かい、悪態をつくとは、あの世の蓮のうてなにおわすお父上がお知りになられたれば、さぞお嘆きになりましょう」
 祥月院がお民を憎しみに満ちた眼で睨(ね)めつけた。
「すべてこの女が悪いのじゃ。この悪しき業を負うた女が嘉門どのを惑乱させ、この石澤の家に呪いと滅びをもたらそうとしておる。このような女なぞ、この世からいなくなってしまえば良い」
 祥月院が上ずった声で叫び、お民を燃えるような憎悪を込めて見据える。
「嘉門どの、そこをおどきなされ、その女、この私が成敗してやりまする」
「母上、お気を鎮められませ。お民に一体、何の罪科があって、そのようなことを仰せになられるのですか。お民をいかにしても亡き者にすると仰せられるのであれば、たとえ母上とてただではあい済みませぬぞ」
 嘉門が腰に佩いた刀に手をかけたその時、お民は泣きながら二人の間に飛び出した。
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