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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第4章 四
「殿、私がこれまで殿の側室にと選んだ娘たちは皆、微禄とはいえ、れきとした武家の娘ばかりで、身許もしっかりとしておりました。その娘たちを退けてまで殿がお選びになったこの女、有り体に申し上げて、私は最初から気に入らなかったのでございます。確かに美しうはございますし、男の心をそそる色香もある女子には違いありませぬが、どこの馬の骨とも知れぬ下賤の者にございます。十年前であれば、間違いなく、このような賤しい女、殿のお傍に置くことなぞ許しはしませんでした。さりながら、殿もはや、おん年三十六、いつまでもそのように悠長なことばかりも申してはおられませぬ。殿のお気に召した女が漸く見つかったのであれば、少々のことには眼を瞑ってこの女を当家に迎え入れようとしたこの母の心が殿にはお判りにはなりませぬか! すべては、殿のお血を引く和子を何としてでもご誕生させるためにございますよ」
祥月院がまくしたてている間中、嘉門は無表情で母親に言いたいだけ言わせておいた。
「母上」
いつになく厳しい表情で嘉門が祥月院を見た。
祥月院が〝おや〟というような顔になる。
これまでであれば、どんなときであれ、母に逆らったり、面と向かって楯突いたりしたことのない従順な息子であった。
彼女にとって、一人息子の嘉門はすべてであり、生命にも代えがたい存在でもあったのだ。その溺愛してきた息子が三十六年間で初めて見せた、醒めた表情。
まるで赤の他人でも見るかのような、その突き放したような眼は、祥月院の心を打ちのめした。
「母上は先ほどから、お民に関して身分がどうのこうのと仰せになっておいでにござりますが、この女は私自らが欲した者にございます。石澤家の当主たる私が正式に認めた側室であれば、いわば、現在は我が妻も同然の女。私の妻を貶めるようなおっしゃり様は、たとえ母上とても許すことはできませぬぞ」
「その身分賤しき女を妻ですと、殿はどこまでその女の色香に血迷われたのか! このようなことであれば、いくら殿の御子を生ませるためとはいえ、そのような女を殿のお傍に上げることを認めるのではなかった。そこまで早々と籠絡されておしまいになったとは情けない」
祥月院がお民を睨みながら、憎々しげに言い放つ。と、真っすぐにお民に近づいたかと思うと、思いきりその頬を打った。
祥月院がまくしたてている間中、嘉門は無表情で母親に言いたいだけ言わせておいた。
「母上」
いつになく厳しい表情で嘉門が祥月院を見た。
祥月院が〝おや〟というような顔になる。
これまでであれば、どんなときであれ、母に逆らったり、面と向かって楯突いたりしたことのない従順な息子であった。
彼女にとって、一人息子の嘉門はすべてであり、生命にも代えがたい存在でもあったのだ。その溺愛してきた息子が三十六年間で初めて見せた、醒めた表情。
まるで赤の他人でも見るかのような、その突き放したような眼は、祥月院の心を打ちのめした。
「母上は先ほどから、お民に関して身分がどうのこうのと仰せになっておいでにござりますが、この女は私自らが欲した者にございます。石澤家の当主たる私が正式に認めた側室であれば、いわば、現在は我が妻も同然の女。私の妻を貶めるようなおっしゃり様は、たとえ母上とても許すことはできませぬぞ」
「その身分賤しき女を妻ですと、殿はどこまでその女の色香に血迷われたのか! このようなことであれば、いくら殿の御子を生ませるためとはいえ、そのような女を殿のお傍に上げることを認めるのではなかった。そこまで早々と籠絡されておしまいになったとは情けない」
祥月院がお民を睨みながら、憎々しげに言い放つ。と、真っすぐにお民に近づいたかと思うと、思いきりその頬を打った。