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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第4章 四
「そのような殊勝なる様を見せて、なおも嘉門どののお気を引こうという魂胆か。その呆れ果てた性根も目論見も見え透いておるわ」
 祥月院はなおも悪態をつきながら、打掛の裾を翻し、脚音も高く去っていった。
「申し訳ございませぬ」
 お民はその場に両手をついた。
「私のせいで殿のお大切なお母上さまをあのようにご立腹おさせ申し上げてしまいました。この責めは、いかようにもお受け致します」
 声が、震える。
 泣くまいとしても、涙が後から次々に溢れ、畳に落ちて染みを作った。
 生まれてから二十四年間、これほどまでの悪意と憎しみを向けられたことは一度としてなかった。我が身がこれほどまでにあの女人から憎まれ疎まれているのかと思えば、やはり哀しく、情けない。
 自分はどうして、ここまで酷(ひど)い目にあわなければならないのかとやるせなかった。
 いきなり、この屋敷に連れてこられ、毎夜、男に身を任せなければならず、好んでここにいるわけでもないのに、追い出したい、否、殺したいと思うほど憎まれている―。
 お民が大粒の涙を零していると、ふいに、その肩に大きな手のひらが乗った。
 もう、幾度となく触れられた男の手だ。
「そなたが悪いのではない」
 耳許で嘉門が呟くと、ふわりと抱きしめられた。
「母上は母上なりに俺のことを、この石澤家のゆく末を案じておられるのだ。それゆえ、つい、あのような心ない仕打ちや物言いをしてしまわれる。とはいえ、そなたには酷(むご)いことを聞かせたな。済まぬ」
 祥月院に対しては反抗的な態度を貫いた嘉門であったが、お民の前ではこうして母を庇った。いつも冷え冷えとしたまなざしですべてのものを突き放したように見つめている男、それが石澤嘉門という男であった。
 その日、お民は嘉門の意外な一面をかいま見たような気がした。

 その二日後の昼下がり、石澤家の庭では二人の下男が庭掃きに精を出していた。
 この日、二人が命じられたのは庭の椿の花を一つ残らず集めるようにと
いうものだった。
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