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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第4章 四
 まだ二十代と思しき二人の男は庭にある数本の椿の樹の中、薄紅色の花だけを選んで集めた。地面に既に落ちているものや樹についているものまでも合わせると、用意していた籠がほぼ一杯になる。
 今度は、それらの花を離れの湯殿まで運び、満々と清潔な湯を湛えた湯舟に撒き散らす。
 浴槽の傍らにある檜造りの寝台には、花びらだけをいっぱいに敷き詰めた。
 二人の下男は主(あるじ)に命ぜられたままの作業を終えた後、小声で囁き合った。
「それにしても、殿は酔狂なことをなさるものだな」
「まだ陽の高い中から妾と椿風呂でしけ込むなんざァ、羨ましいというか、呆れ果てるというか」
「だが、あの女であれば、殿がそこまでご寵愛なさるのも俺は判るような気がするぞ。俺たちにゃア、滅多と拝むことはできねえが、たまーに庭を歩いている姿を遠くから見かけることがある。こう、膚なんぞは透き通るように白くって、ああいうのを吸いつくような膚っていうのか、とにかくきれいな女だぜ。ちょっと愁いがあるところがまた、たまらねえ。こう、時々、物憂げに溜息なんかつくところは、もう、そそられるよ。ひとめ見ただけでは、色っぽさなんかはそう感じねえのに、それでいて、どこか人眼を引く不思議な色気のある女だな。とにかく良い女だ」
「フーン、俺もそんな色香溢れる女と真っ昼間からしっぽりといきてえもんだ」
 二人は意味ありげな笑い顔で見つめ合うと、互いに肩をつつき合いながら〝殿さまの女〟についての話を延々と続けたのだった。
 二人の下男たちがそんな話に打ち興じていた頃、お民の許を珍しく嘉門が訪れていた。
 大体、このような昼間のお渡りがあること自体が珍しいのだ。が、嘉門から共に湯浴みをと言われたお民は戸惑った。
「陽の高い中からはいやでございます」
 と一度は拒んではみたものの、嘉門がすんなり聞き入れてくれるはずもない。
 椿の花を浮かべた湯舟に嘉門と二人で入りながら、お民はあまりの恥ずかしさに顔も上げられなかった。
 このひと月以上の間、お民は毎夜、嘉門に抱かれた。
 しかし、それは陽が落ちて辺りが夜の闇に沈んでしまってからのことで、こんなに明るい時間ではない。
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