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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第6章 第2話・壱
     【壱】

 軒を打つ雨音だけがかすかに聞こえてくるのが、かえって夜の深さを際立たせている。その日、一日中降り続いた陰鬱な雨は、夜更けになっても、いっかな止む風もなく降り続けていた。
 そのひそやかな夜の底に、衣擦れの音やあえかな吐息が響く。あたかも降り止まぬ静かな雨音に溶け込むかのようなひそやかさである。
 ここ江戸の外れの徳平店と呼ばれる粗末な棟割り長屋の一角。左官の源治の住まいで、薄い夜具の上で二人の男女が絡み合っていた。女の白い肢体に覆い被さる男の後ろ姿は屈強で、枕許の行灯の投げかけるぼんやりとした光が、男の精悍な陽に灼けた横顔を夜陰にぼんやりと浮かび上がらせている。
 男の手が女のふくよかな乳房を揉みしだく。首筋に熱い吐息が吹きかけられ、男の手が次第に下に降りてゆくのをお民はぼんやりとした意識で感じていた。男の手がお民の下腹部まで伸びたそのときのことだ。
 お民がかすかに身を捩った。
 お民の唇を吸おうとしていた源治がふと眉を寄せる。唇が重なり合おうとするまさにその一瞬に顔を背けた妻を、源治は訝しげに見つめた。
「どうした?」
 お民は、ゆっくりと眼を開いた。薄く笑んで、首を振る。
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