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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第6章 第2話・壱
まさか良人に抱かれているその最中に、他の男のことを思い出したなぞとは死んでも口にはできない。
「ごめんなさい」
お民は素直に謝り、再び眼を固く閉じた。
源治の顔が近づき、唇が重なる。しんと冷えた男の唇は芯にほのかな熱を帯びている。それは、普段は沈着で滅多と感情を露わにせぬ源治が内に秘める情熱を物語っているようでもある。
良人が身の内に燃え滾る焔を隠し持つことを知ったのは、いつのことだったか。お民がまだ最初の亭主兵助の女房だった頃、源治は斜向かいに住む気の置けない隣人にすぎなかった。物静かで大人しくて、口うるさい世話女房よろしく、逢えば毎度説教、訓戒と要らぬお節介ばかり焼いていたお民を、源治はただ笑って適当に受け流していた。
だが、どうやら、それは源治という男のほんの見せかけだったらしい。源治という男は、上辺からは想像も及ばぬほどの熱さを秘めた男であった。それを痛切に感じたのは、一年前、お民が和泉橋町の旗本石澤嘉門の側妾となったときのことだ。
「ごめんなさい」
お民は素直に謝り、再び眼を固く閉じた。
源治の顔が近づき、唇が重なる。しんと冷えた男の唇は芯にほのかな熱を帯びている。それは、普段は沈着で滅多と感情を露わにせぬ源治が内に秘める情熱を物語っているようでもある。
良人が身の内に燃え滾る焔を隠し持つことを知ったのは、いつのことだったか。お民がまだ最初の亭主兵助の女房だった頃、源治は斜向かいに住む気の置けない隣人にすぎなかった。物静かで大人しくて、口うるさい世話女房よろしく、逢えば毎度説教、訓戒と要らぬお節介ばかり焼いていたお民を、源治はただ笑って適当に受け流していた。
だが、どうやら、それは源治という男のほんの見せかけだったらしい。源治という男は、上辺からは想像も及ばぬほどの熱さを秘めた男であった。それを痛切に感じたのは、一年前、お民が和泉橋町の旗本石澤嘉門の側妾となったときのことだ。