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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第6章 第2話・壱
「多分、ここにいるんじゃねえかと思って、真っ先に来てみたんだけどよ。俺はお前の無事な姿を見るまでは気が気じゃなかった。その―、お前がここから川に飛び込んでドブンといっちまうんじゃないかとか考えてさ」
「それも良いかもね。兵太の生命を呑み込んだこの川に飛び込めば、もしかしたら兵太にももう一度逢えるかもしれないもの」
 半ば本気、半ば自棄で言った科白に、源治が眼を剥いた。
「馬鹿野郎」
 思いがけず大声で怒鳴りつけられ、お民は眼を見開いて良人を見つめた。
「そんなことをして、誰が歓ぶと思ってるんだ。亡くなった兵太だって、兵さんだって、お前がそんな死に方をして、浮かばれると思ってるのか?」
 源治がもう一度、お民を抱きしめた。
「頼むから、そんな馬鹿げたことだけは考えねえでくれないか。俺は―、たとえお前があの殿さまを忘れられねえのだとしても、他の誰に惚れちまったのだとしても、俺の側にいて欲しい。お前がいなくなったらと考えただけで、頭がイカレちまうんじゃねえかと思うくらいに、お前に惚れてるんだ。お前と離れ離れになってる間、お前がどれほど大切なのか、これでも思い知らされたんだぜ」
 最後は少し冗談めかして言うのは、いつもの源治らしい。
「判ったな。死ぬだけなんてことだけは考えるな。約束だぞ」
 幼い子どもに言い聞かせるように言うと、源治が呟いた。
「そろそろ帰ろう」
 お民の肩を抱くようにして歩き出した源治の肩に身を預けながら、お民は固く眼を瞑る。その閉じた瞳から、ひとすじの涙が流れ落ちた。
 自分たちは最早、このまま駄目になってしまうのだろうか。
 絶望的な予感に怯えながら顔を上げると、源治のまなざしがずっとこちらを見下ろしていることに気付く。星明かりを宿したような澄んだ瞳が一瞬揺れ、哀しげに曇った。
 私はこの男(ひと)をこんなにも哀しませているのだ。
 そう思うと、無性にやり切れず、そんな自分自身を許せないものに思える。
「泣くな。俺は待つから。お前の心が以前のように俺だけを見つめてくれるようになるまで、いつまでも待つから」
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