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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第6章 第2話・壱
 性愛を伴う行為には逃げ出したくなるほどの抵抗を感じるのに、こうして腕に抱かれているだけなのは誰の腕の中より、やはりこの男のものが心地良い。
 思えば、嘉門の腕の中にいて、こんなにも安らげたことがあっただろうか。あの男はいつもお民を翻弄し、お民は嘉門の腕の中では嵐に舞い狂う花びらのように漂い、ただ幾度も花びらを散らすしかなかった。あの男に抱かれる度に、お民は自分が荒ぶる風に嬲られ、無数の花びらを散らす一本の樹になったような気がしたものだ。
 お民の心が求めるのは今も変わらず源治ただ一人。
 だが、それはお民の我が儘なのだろう。
 愛し合っていれば、惚れていれば、触れたくなる。膚を合わせ、身体を重ねたくなる。幾らそれだけがすべてではないと綺麗事を行っても、男と女は所詮は、膚を合わせることで互いの愛や想いを確かめ合うことになるのだから。
 もう、いつもの源治に戻っている。先刻の嵐の夜を思い出させる烈しさも、暗さも翳りはあとかたもなく消えていた。
「俺はお前がまた、どこかに一人で行っちまったんじゃねえかと思ったぞ」
 お民は源治の胸に顔を寄せ、大人しく寄り添っていた。
 源治がお民の髪を指で梳く。
「約束してくれ」
 お民がそっと顔を上げると、思いつめた漆黒の瞳が間近に迫っていた。
「俺を一人にしねえでくれ。二度と、俺の側から離れないでくれないか。俺はもう、お前を失うのは二度とご免だ。―済まねえ。さっきは俺が言い過ぎた。だから、妙なことなんか考えるなよ」
「―妙なことって」
 この時、お民には本当に良人の言葉の意味が判らなかった。小首を傾げるお民を源治はまたたきして見つめた。
「お前は変わらねえな。見た目はすっかり垢抜けて綺麗になっちまったけど、そんな風に子どものように無邪気な顔したり、思わずドキリとするほどの色気があったりさ、風車のように表情が変わるところなんか、全然変わらねえ」
 そう言いながらも、源治の指が優しくお民の髪を撫でる。
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