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石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~
第7章 第2話・弐
―駄目だ。その必要はねえ。
―お前さん、でも。
言いかけたお民を、源治は哀しげな眼で見つめた。
―お前一人くらい、俺が働いて、ちゃんと食わせてやる。だから、外に出て行くことはねえ。
それから後も同じことの繰り返しだった。むしろ、お民が働きに出たいと言うと、余計に頑なになって〝駄目だ〟の一点張りだ。
最近、お民は源治が日中、仕事に出ているときには仕事探しを始めた。源治はお民が働きに出るのはむろん、外出するのも嫌う。
以前は全くこんなことはなかったのに、お民が一人で出かけるとなると、渋い表情をするようになった。昨夜もそのことで久しぶりに夫婦喧嘩になった。
お民が表の張り紙を見て、見つけてきた仕事を源治に話したところ、源治が怒り出したのだ。それは、町人町の一膳飯屋の仲居の仕事だった。老夫婦が二人だけでこぢんまりとやっている店で、職人や人足といった日傭取りが主な客だという。昼は飯だけだが、夜は酒も出す。これまでは二人で営んでいたが、近頃、老いた女房の方がとみに脚腰が弱ってきたため、急きょ仲居を一人雇うことにしたのだと、いかにも人の好さそうな小柄な主人が話した。
―駄目だったら、駄目だ。飯屋といったって、酒も出す店だっていうじゃねえか。お前に、そんな酌婦のような真似をさせられるか。
憤る源治に、お民は笑った。
―お前さんが考えてるようなお店じゃないんですよ。本当に、ただの一膳飯屋なんですから。それに、仕事も通いで良いっていうし、朝から夕方いちばん忙しい時間まで働けば、後は自由にして帰っても良いって言って下さるんです。
―それに、何で、黙って一人で出歩いてるんだ。あれほど外に出ちゃならねえと言ってるだろうが。俺のいねえ間にゃア、ずっとそんな風にふらふらと外をほっつき歩いてるのか。
源治が憮然として言うと、お民が少し拗ねたように言った。
―私は子どもじゃないし、飼い犬でもありませんからね。どうして、お前さんにそこまで言われなきゃ駄目なんですか。ちゃんと一人で外出もできるんですから。
―お前さん、でも。
言いかけたお民を、源治は哀しげな眼で見つめた。
―お前一人くらい、俺が働いて、ちゃんと食わせてやる。だから、外に出て行くことはねえ。
それから後も同じことの繰り返しだった。むしろ、お民が働きに出たいと言うと、余計に頑なになって〝駄目だ〟の一点張りだ。
最近、お民は源治が日中、仕事に出ているときには仕事探しを始めた。源治はお民が働きに出るのはむろん、外出するのも嫌う。
以前は全くこんなことはなかったのに、お民が一人で出かけるとなると、渋い表情をするようになった。昨夜もそのことで久しぶりに夫婦喧嘩になった。
お民が表の張り紙を見て、見つけてきた仕事を源治に話したところ、源治が怒り出したのだ。それは、町人町の一膳飯屋の仲居の仕事だった。老夫婦が二人だけでこぢんまりとやっている店で、職人や人足といった日傭取りが主な客だという。昼は飯だけだが、夜は酒も出す。これまでは二人で営んでいたが、近頃、老いた女房の方がとみに脚腰が弱ってきたため、急きょ仲居を一人雇うことにしたのだと、いかにも人の好さそうな小柄な主人が話した。
―駄目だったら、駄目だ。飯屋といったって、酒も出す店だっていうじゃねえか。お前に、そんな酌婦のような真似をさせられるか。
憤る源治に、お民は笑った。
―お前さんが考えてるようなお店じゃないんですよ。本当に、ただの一膳飯屋なんですから。それに、仕事も通いで良いっていうし、朝から夕方いちばん忙しい時間まで働けば、後は自由にして帰っても良いって言って下さるんです。
―それに、何で、黙って一人で出歩いてるんだ。あれほど外に出ちゃならねえと言ってるだろうが。俺のいねえ間にゃア、ずっとそんな風にふらふらと外をほっつき歩いてるのか。
源治が憮然として言うと、お民が少し拗ねたように言った。
―私は子どもじゃないし、飼い犬でもありませんからね。どうして、お前さんにそこまで言われなきゃ駄目なんですか。ちゃんと一人で外出もできるんですから。