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喘ぐなら、彼の腕の中で
第11章 忘れられない日


心臓が、壊れたように大きな音を立てていて
胸が潰れそうなくらい締めつけられる。

……莉央が、翔ちゃんを……


「……これ以上喋ったら、あいつにまた殴られそうだな」


翔ちゃんは笑顔で私の頭をポンポンと叩いた。
その微笑みが優しくて、切なくなってくる。


「なぁ、沙月。
さっきお前から聞いた莉央の話。
あいつが自分で言った通り、今の莉央に好きな女はいないと思うよ」

「……!」

「これでも兄貴だからね。
あいつの心情は直接聞かなくても分かる」


翔ちゃんは海を見つめて笑顔を消すと、静かに続けた。


「でも、自分の言動に矛盾が生じていることに、一番戸惑ってるのはあいつ自身だろうな」

「……矛盾……?」

「作り上げてきた自分が、本当の自分だと思ってるけど
自らの意思とは裏腹に、抑えていた本心が表に出てきちまってるんだ」

「……!」

「鉄壁を崩す程の、“ なんかのキッカケ ” があったんだよ」


その言葉を聞いて、翔ちゃんを見つめる。

翔ちゃんは何もかも分かってるかのように、海のように穏やかだ。



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