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喘ぐなら、彼の腕の中で
第13章 回想


屋上の喫煙スペースに着くと、珍しく誰もいなかった。

午後の2時。
ベンチに座って空を見上げると、目が眩むほどの日光が降り注ぐ。

5月下旬となった今、季節は梅雨へと変わっていくけど
今日は今月の暦通り、空は澄み切っていた。


「………」


連打していたSといい、この爽やかな晴天といい
まるで全てがその名前に繋がるかのように、あいつのことが頭に浮かぶ。


“ 嫌なの。
莉央が、私以外の……他の女を抱くのが ”


沙月の言葉が、資料室に呼ばれた日から4日経った今でも残っていて
木村がさっき俺に言った通り、珍しく呆けている自分がいる。

沙月の視線を感じる以前に、俺も沙月を見ていることにも気付いている。


………それでも


「……変わらねぇな」


煙草を咥えたまま、呟いた。

沙月から惚れたと聞いて、溢れる大粒の涙を見ても

それによって体が何らかの反応をしていても

心が何かを感じる前に、見えない不可抗力に覆われてしまう。


子供の頃、確かに好きだったはずの女から告白されたというのに

結局俺は何も変わらない。



─── 俺の脳裏に

あの頃の記憶が鮮明に蘇ってきた。




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