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喘ぐなら、彼の腕の中で
第13章 回想



─── 俺の生みの母親を気遣う、優しい気持ちが溢れた涙だった。


周りの誰がどう見ても、俺は両親や兄貴達から愛されていて、本物の親子と同じような絆で結ばれている。

だけど

その時の俺は、母の瞳からその雫が流れたということに、ただただショックを受けて

やっぱり、俺は間違って生まれたんだと強く認識するようになった。


優しくしてもらえばもらうほど、自分の立場を忘れてしまいそうになるから

幸せを感じたらいけない、嬉しくても喜んだらいけないと、常に自分に言い聞かせるようにしていた。


本当の気持ちを抑える度に、自分の殻がどんどん分厚くなっていく。

気付いたら

自分が何を感じているのか、分からなくなっていた。

自分の感情が分からなくなると、人の気持ちも自然と考えなくなる。


………母の涙は

俺がこの家に来た時に感じた、背徳の意識を呼び戻す、それほどの威力があった。


「………」


煙草を灰皿に捨てて、透き通った空を見上げる。


………大人になればなるほど

指切りや握手なんかじゃ、相手を繋ぎ止めることはできない。

相手の真っ直ぐな想いを受け取る資格もないから

適当な女と体だけ繋げて、相手の満足した顔を見ることができたら、もうそれだけでいい。


歪んでると言われようが、矛盾してると非難されようが

誰にどう思われようが一向に構わない。


………理解できない男を演じて、割り切って生きていかないと


俺は寂しさを隠せなくなる。


誰かを、愛したくなってしまう。


心はいらないと言い聞かせていた自分を


偽れなくなってしまう。




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