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喘ぐなら、彼の腕の中で
第16章 先手必勝


「……寒いのか?」
「え!?」
「車の中からだけど、なんか震えてねぇ?」
「だ、だだだ大丈夫!」


そう言って答えたけど、心臓の鼓動がハンパなく早い。

それでも

立派な一本松の先にある玄関を目指して、足を踏み出した。

こうして彼の実家に来れるのは、幼なじみの特権だな。


「おい、どこ行くんだよ」
「おうちの人に挨拶」
「いいよ面倒だから。さっさと行…」
「いいから来て!」


私は莉央の左腕をガシッと掴んで、力いっぱい引っ張った。

もう狼煙は上がってる。

舞台は整った。


「痛ぇな!海はどうしたんだよ!」
「後でいい。てか、別に行かなくてもいいの」
「はぁ!?」
「目的地は、ここだから」
「……!!」


唖然とする莉央の腕を掴んだまま、一緒に石畳を進む。

重厚な檜の扉を開けると、漆喰の玄関に、男物の革靴が脱ぎ捨ててあるのを見つけた。

私は大きく息を吸う。


「沙月! いいかげんに…」
「お邪魔します!!」




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