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喘ぐなら、彼の腕の中で
第20章 2人の始まり


「……で、お前はこれからどこ行くの」


私のギラギラした視線を避けて、莉央が話題を変えた。


「照明の納期交渉。
特注で頼んだんだけど、思ったより時間かかってるから直接現場見に行くの」

「乗り込みか。 迷惑な奴」

「うるさい。
そっちこそ、珍しくお固いシャツとネクタイしてどうしたのよ」

「クレーム対応。
先週モデルに納めたガラステーブル、梱包が悪くて全数ヒビ入ってた」


うわ~悲惨。
自分のミスじゃなくても謝らなきゃいけないのが、営業職の悲しい務めよね。

そんな会話をしているうちにエレベーターが到着して、私と莉央は2人で乗り込んだ。


「莉央ほどじゃないけど、緊張するわ」


工場の職人さんはみんな好きだけど、急かすと機嫌悪くなっちゃうんだよなぁ。
昼食前だけど、軽い差し入れでも買っていこうかな。

私が大きく深呼吸をすると、右上から莉央の笑い声が降ってくる。


「色仕掛けでもするか、得意の涙で同情誘ってみればいいだろ」

「嫌よ。 そーいうの大っ嫌い。
正々堂々勝負するもん」

「それは立派だな。
緊張してるっつーのは見せかけか」

「~~こう見えても気を張り詰めて…」

「じゃあ解いてやるよ」


莉央の左手にぐっと肩を掴まれて

近付いてきた彼の唇が、私の唇に重なった。




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