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水は低きに流れる
第3章 流されやすくて
「岩崎さん、いつにする?」
「あ~、休みの前ならいいけどね」
昼休みに後方で声が聞こえて思わず聞き耳を立てた。
バイトの子達と岩崎さんが飲みに行く話をしているっぽい。
仕事中は誰に対しても敬語だったのに、距離が近い気がする。
「岩崎さん、全然空いてないんだもん」
「そんなことないよ。じゃあ土曜日にする?」
「本当?!」
「あとのメンバーは任せるから」
なんとなく話の雰囲気で岩崎さんを含んだ何人かで飲み会するらしい。
どこかで自分だけ岩崎さんにとって特別だと思っていたとこがあったから、胸が少しだけ痛い。
やっぱり、岩崎さんは私だけじゃなかったのかも…。
やっぱりどこかで気持ちを止めようとして正解だった。
お弁当を食べ終わって休憩室を出てトイレに向かうために廊下へ出た。
カチャッと音が後ろでして振り返ると岩崎さんが出てきた。
「ちょっと」
呼び止められて、思わず誰もいないか周りを見渡す。
岩崎さんが足早に近寄ってきて耳元で小声で囁く。
「今日も行くけど、いい?」
「え?あ…はい」
クスッと笑うとそのまま何事もなかったかのように通り過ぎて行った。
ほんのわずかな時間だったのに心臓が跳ね上がってドキドキしている。
こんなことされたら、せっかく気持ちを止めようとしても止めれなくなってしまう。
耳元で囁かれた感覚がしばらく残っていた。