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第2章 会議室

クレアがエレベーターに先に乗った。

そしてクレアに続き私がエレベーターに乗る。もし妻とエレベーターに乗る場合は私が先に乗るだろう。
自然な流れでそうあると思う。

しかし何故か私はクレアの前を歩く事も、クレアをリードする事ができなかった。
仕事上の立場だけでなく、私の気持ちの中ですべてクレアに屈する本能が働いていたのだろう。

エレベーターの中は沈黙であり、静寂かつ空気がどことなく重かった…先に口を開いたのはクレアだった。

「ファミマでいいですよね？」
「はい」

「山下さんは大阪工場は初めてですか？」
「はい。自分は初めてです。」
「………」

たわいもない会話がエレベーターが一階に着くまでの間に幕を閉じた。

一瞬の会話ではあったが 私は幸せに満ちた、至福を感じ、エレベーターを降りた。
しかし私が幸せを感じれば、クレアは嫌悪感に襲われる。
たわいもない会話はクレアにはその場を取り繕う社会的常識、重い空気を和らげるクレアの機転を効かせた接待的なもの。クレアにはさらなるストレス。
すでにクレアは空腹感はすでになくなっていた。

何故そこまでクレアが山下の事をそこまで嫌がるのか自分でもわからない。ただただ生理的に合わないだけ？


よくわからない空気の中2人はコンビニに向かって歩いていた。コンビニまでの道のり、裏通り、光と影、ランチを終えた定食屋さんから流れるお昼のニュース。

ありきたりでいつもと変わらない風景だが、
容姿端麗なクレアとその一歩後ろを歩くどこにでもいる中年はその風景の中ではミスマッチであった。

「あれクレアコンビニ？」
「そう！」

クレアの同僚の若い女性数人がクレアに声をかけた。
私は軽く会釈をし、クレアは足早にその場を立ち去ろうとした。そして過ぎ去った同僚達の笑い声がした。
クレアはわかっていた。ハンカチの件だ。ハンカチを盗んだ変態を連れて歩いている。
クレアはハンカチの件を彼女達に話した事を後悔していた。振り向く事はできなかったが、まるで指を差されて笑われたと感じ更なるストレスになり、クレアは恥ずかしさとやり場のないイラつきを抱きコンビニに入った。

ハンカチの件が暴露てるとは私は分からない。だから彼女達が私とクレアを笑ったとは微塵にも思わなかった。