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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
いつもサクが両耳につけていた白い牙の耳飾りは、物心ついた頃には既に、ハンにつけられたものだった。
時折、動くのに邪魔だから外したいとハンに言ったことがあったが、これは魔除けだからどんなことがあっても耳から外してはいけないと言われて以来、外そうと思ったことはなく。
ただ、最強の武神将である父と同じく、片耳にしたいとは思っていた。
今、不可抗力とはいえ……片耳だけにぶら下がっている白い牙。
"契約"の証として、不可視な存在にそれを奪われ、代わりに砕けた四肢が回復した。
あの声は、極限にあった己の切迫観念が創り出した幻ではなく、現実のものとして、確かに今サクが必要としていた力の片鱗を見せてくれた。
今のサクにはそれだけで十分だった。
とりあえず、ここからユウナを連れ出せる力が蘇れば。
"契約"で、ユウナの傍にいられるのは7日。
それまでにどうにかして、玄武の武神将である父に彼女を託さねばならない。
父は今、どこらへんにいるのだろう。
両腕に抱くユウナは、くったりとして目を閉じていた。
両目からは涙の跡。
血の気のない肌と唇の色は……まるで死人のようで。
サクはふと足を止め、ユウナの頬に自分の頬をすり寄せると、辛そうに目を伏せた。
氷のようなその冷たさが、これからのユウナの運命の暗示のような気がして、不安でたまらない。
あと7日と契約してしまったからには、生涯傍にはいられない。
ならばその間にせめて、ユウナが生きていこうとする力を与えたい。
愛する彼女が、自分の居ない世界で笑って生きられるように。
そんな時だったのだ。
「きぇぇぇぇぇ」
「ひもじぃ~」
「あ゛ぁぁぁぁぁ……」
おかしな声がしたのは。