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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
慌てておかしな声がした前方を見れば……。
「これは……!!」
――サク。黒陵に、膨れた腹と痩せた体を持つ、最下級の魔物……"餓鬼"が蔓延している。
歪で醜い人型をした……"餓鬼"という名の異形の群れ。
サクは初めて目にしたが、父からの前もっての知識で、目の前のそれらが餓鬼だと確信があった。
――餓鬼に会ったら、倒そうとするな。餓鬼は食らいつくものがねぇ限り、切っても切っても蘇る。欲だけで生かされている……生きた屍だ。死ぬという概念はねぇ。消せるのは神獣の力のみだ。
両手の指以上、もしかすると何百もに上る餓鬼の群れが、魔を弾くはずの玄武殿の敷地を彷徨している――。
ただうろうろと歩くだけではなく……瓦礫を食っていた。
荘厳な玄武殿の建物を。
玄武殿に行き着くまでの、迷路を罠ごと。
なんでも食らう餓鬼にとって、彼らを阻む障害などなにもなかった。
「ひもじぃ……」
「きぇぇぇぇぇぇぇ」
不安定で頼りなげな声音の、奇声があたりに響く。
彼らが通った跡は……荒廃していた。
警備兵はどうなったのか。
後を任せたシュウはどうなったのか。
視界の端に、骨が覗く肉片がある。
貪りつく数体の餓鬼。
その中には、警備兵に支給されている刀を囓っているのもいた。
「――クソっ!!」
武器で切れぬ存在ならば、武器鍛錬に優れた警備兵の意味はない。
餓鬼にとっては、鍛えられた肉体も研ぎ澄まされた鋭利な武器も、全くの無意味。ただの餌にしかすぎない。
餓鬼を消すことが出来るのは、不浄なものに対抗する神獣の力を持つ武神将のみ。祠官亡き今、父の力がどうなっているのかはわからないが、父しかこの餓鬼を抑えることは出来ないのだ。
「クソ親父っ!! 早く戻ってこいっ!!」
ハンが来なければ、すべての希望が潰えてしまう。
黒陵の運命も、ユウナの運命も。