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吼える月
第26章 接近

「双方が相手を名乗って変装してきたのか?」
リュカはスンユの名を。スンユはリュカの名を。
お互いが顔見知りだという前提で。
――各国に伝わる星見の伝承。そこにある真の"輝硬石"を用いて、誰の目をも欺く場所にて、時が満ちるのをお待ち下さい。
ジウと祠官が採用したスンユの案は、実はリュカの案。
「つまり今この現状は、リュカの思惑の中ということか!?」
頷く祠官を見て、サクはざわりとしたものを背筋に感じた。
スンユとの関係はわからないが、もしもリュカが本名で面会していたのだとしたら、その案は却下された可能性の方が高い。だが別人を装うことで、結局リュカは蒼陵に事前に布石を敷いたのだ。
「ヒソクの輝硬石は、ヒソクはどうなったの?」
テオンが怪訝な顔をしながらジウに尋ねる。
「あやつにこの件は話してなかったのです。知らぬ間に、意気揚々と石を運び込み、その代償にスンユ殿に鍵の在処を勝手に話してしまっていた。ただ単に蒼陵の武具を強化したかったからとはいえ、次期武神将ゆえにと伝えていた秘匿を、簡単に話してしまったその判断の甘さに、私は怒り、石をスンユ殿に返させた。それを理不尽だとしか思えぬあやつは出て行ったきり戻っては来ませぬ。恐らく、スンユ殿の庇護下にあるものと」
ジウは大きな身体を小さく丸めた。
「輝硬石を持ち出せたのは、皇主の息子だからだとして、だったら鍵を狙っているのはスンユってことか? え、リュカではなく?」
サクは混乱しかけていた。頭を抱えて唸り出すサクを見兼ねて、テオンが落ち着くようにと肩を叩きながらまとめた。
「スンユは、リュカと名乗り父様に会い、同時にヒソクとも会っていた。ジウがスンユの顔を知っているのなら、次期武神将として連れ回されているヒソクが知らないはずはない。顔を見かけて声でもかけたのか、スンユの考え合ってのことか分からないけれど、スンユは父様に断られたから、ヒソクを使った可能性もあるね。とにかくヒソクから鍵の在処を聞いて、今ヒソクを従えているのかもしれない。…ジウ、ヒソクは…」
「輝硬石のために蒼陵の秘密を外部に漏らした。その相手が皇族であろうとも、そんな男は……」
一度言葉を切り、ジウが低く威嚇のように言い切った。
「次期青龍の武神将とは認めませぬ」

