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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
――サク。まだお前、武神将になろうとしねぇのか?
――リュカが祠官になったらな。それまでは……いやこれからも、俺は姫様の護衛でいたいんだ。煩わしいことはまっぴらごめんだ。
こんなことになるのなら、先に武神将にでもなればよかった。
そうすれば神獣の力で、この場を抑えられたのに。
……ユウナをこんな目に合わさずともよかったかもしれないのに。
今となってはすべては後悔だ――。
新たなる邪な契約を取り交わしたサクには、父のような不可思議な"力"というものは使うことは出来なかった。
出来ないことはないのだろう、確かにゲイの結界を破った時、ユウナを腕に抱くために不可解な遠隔的な力は生じたのだ。……まるで風のような。
だがどうすればそんな力が意識的に出せるのか、まるでわからない。契約相手からの補足もない。
「そんなことに頭を回している余裕に……逃げねぇとな」
そして彼は、自分より数倍遅い速度で移動する餓鬼から逃げるようにして、食い散らかされた瓦礫の山を踏み越えて、外に出られる正門へと走った。
「サク……」
不意に声がして、慌ててユウナを見れば――
「よかった……元気になったのね……」
ユウナが頼りなげな目を向けていた。
「ああ。俺がやられるわけねぇだろ」
ひとのひと気にする余裕なんかないだろうに。
そんな思いを抑え、にっと笑って見せるが、ユウナは儚く笑った。
「ありがとう……。あたしに……笑ってくれて。優しいね、サクは」
サクにはその意味がわからなかった。
もう"穢らわしい"自分とサクとは、サクに侮蔑されて縁が完全に切れたとユウナが思っていたことなど。
それを押し殺して、サクは自分に無理に優しく接しているのだと、ユウナは解していた。サクに無理をさせているのだと。
だからユウナは言った。
「もういいよ、サク。あたしを……ここに残して」