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吼える月
第26章 接近
「俺にはそこが理解出来ねぇ。まるでこの方法をとらないといけねぇ必然性があったようにしか思えねぇんだ。
子供を含めた民を欺くくらいなら、なんで民と一致団結しなかった? 祠官は民と共にあるのが筋だろう? 他国に相談できないのなら、蒼陵国内だけでも協力を要請してもいいはずだ。なんで……なにがわからないこの時期に、大切な子供達を海上に置き去りにしている? ここまでこの海底都市はできているのに、なぜすぐにでも迎えにいかない?」
矢継ぎ早のサクの問いに、祠官は詰まった声を出した。
直感的に思う。
こうしなければならない理由があるのだ。
なんでこういう事態になったのか……。
どうしてもひとつの結論に辿り着いてしまう。
真の輝硬石を示唆したのは、リュカだ。
警戒していながら、なぜ今も律儀にリュカの言葉に従っているのか。
リュカの言葉を聞いたのは――。
「……ジウ殿。リュカに、他にまだ言われていたのでは? 従わねばどうにかすると脅されたのでは? ギル経由でリュカが来ることを知っていたはずなのに、慌てた様子もない。もしや…あらかじめ、"成果"を見に来るとでも、前に言われてたのでは?」
ジウの唇が微かに震えたのが、サクの目に入る。
「黒陵のリュカがそう言ったから、親父に相談できず。だけど親父がどんな理由にしてもここに来てくれることを願っていたのではないか。親父は権力でひとを屈服させるのを嫌うから」
ジウからも祠官からも解答はなく。それでもサクは、ふたりが正義感の強いハンになにかを託そうとしていた確信だけは強めた。
そして、生じていたもうひとつの疑問。
「伝説の輝硬石を作り、複数の効能を制御できる加工技術はどこから? 中央ならともかく、それだけの技術者が蒼陵にいたのか? 渦を作る力だって、塔を管理してるのは蒼陵の民なんだろう? 素人にでも任せられる技術と知識はどこから?
それは本当に、あなたが思いついたものなのか?」
サクがまっすぐに祠官を見据えた時――、ひとりの警備兵が慌てた様子で中に入ってきた。
「……鳥が文を。至急の赤紙ゆえに」
立上がったジウがそれを受け取り、畳まれた文に目を走らせた。そして顔色を変え、祠官に向き直る。
「ギルからです。
海上に、異形の群れが現れたとのこと!」