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吼える月
第26章 接近
"異形"
サクの心臓が不吉な予感に跳ねた。
「どんな異形だ!? まさかそれは……」
「"姿は子供のようで、腹だけが異様に膨らんだ痩せ細った者達"と書いてある。奇声を放ち、どうやらあちらにいるユウナ姫が"餓鬼"と呼んだらしい。それはもしやハン殿が言っていた……」
ああ、やはりそれは――。
「餓鬼だ!」
サクは荒く立上がった。
「早く……、早く姫様の元に戻らないと!!」
どうして、どうしてイタチからの警告がこない!?
なんのためにユウナの元に残してきた!?
「餓鬼というのは、サク殿が取り乱されるほど、脅威のものか?」
祠官のやけに落ち着いた声音が恨めしい。
「ああ、それで黒陵が堕ちた!! 餓鬼は食うんだ、形在るものすべて。巷の輝硬石ですらバリバリ食うんだよ。そして海を泳ぐ!!
……っ、まさか黒陵から泳いできたのか!?」
「文では、大量の船に乗ってきたそうだ」
「船!? なんでも食っちまう奴らがなんで船に……」
どくん。
サクの心臓がまた嫌な音をたてた。
「まさか、餓鬼を操る……奴までもが来たのか?」
思い出すのは黒陵、玄武殿。
餓鬼が群がる中、金色の男は来て、銀色の男と共に生き抜いているのだ。
なにより、リュカの蒼陵来訪は事前告知されている。最初から感じていた疑問――、この時期、妻を娶るという不可解な行動をした彼が、やはりただ観光に来るはずがない。
土産を持参したのだとしたら?
「今度は蒼陵を滅ぼすつもりか、リュカ――っ!!」
柔らかな笑みを絶やさないでいた、かつての友。
滅ぼしたいのは、国? …それとも、逃げ込んだ自分達?