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吼える月
第26章 接近
「その餓鬼とやらは厄介なのだな?」
祠官は動じていない。
「ああ。あいつら切っても再生するんだ!! すまないが緊急事態で俺、今から【海吾】に戻る。テオン、すぐ船を出して……」
「待たれよ!!」
祠官が強い語気でサクを止めた。
「その緊急事態には、青龍の力が必要だ。ここは蒼陵なのだから」
「だけど、その青龍は……っ!!」
「ジウ」
「はっ」
「決行する」
ジウは言葉を飲んだ。
なにをとサクに聞き返す前に、祠官はテオンを見た。
「お前は、蒼陵を守る真の輝硬石を開発したことについて、どう思うか。正直なところを答えよ」
「なあ、今はそれどころじゃ……」
「サク殿、お待ち下され!! どうか」
ジウが悲痛な顔で頭を下げてきたために、苛々しながらも待つことにした。
「僕も……お兄さんと同じ意見です」
テオンが、声音を震わせながらも祠官に楯突く姿勢を見せた。
「どんな理由があろうとも、誰かが死ぬ方法は考えてはいけない。僕はそう思います……」
「ならばお前ならどうする?」
「僕なら……、戦います」
そう言ったテオンの目には、弱々しさはなかった。
「前の僕なら、争わない方法を願いました。しかし、凄惨な環境と戦い、生き抜いたお兄さんを見て、平穏叶わぬ事態なら抗うのも生きる術になると。
予言が運命でどうせ死ぬ運命なら、国を守り、生きるために闘って死にたい。それが蒼陵の民として、男としての名誉だと、子供の僕でも思うようになりました。守られてばかりの子供も、生きるために強くなっています。いつまでも弱々しく、守られるべき存在ではない。むしろ親を守りたい。
……子供を強く育てるのは、親なんです。どんな親でも、親が存在するからこそ、子供は進むべき道があるんです」
祠官もジウも黙ってテオンを見ていたが、少し微笑んでいるようにサクには思えた。恐らくテオンは、今までふたりに闘う姿勢を見せなかったのだろう。だから親から絶縁されても、受け入れていたのだ。
今、彼はその親にきちんと意見を述べている。
……どう見ても、年上には見えなかったけれど。