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吼える月
第26章 接近
「ならば、お前がそのような蒼陵を作れ」
祠官は言った。
「私を悪い見本に、強い国を作るがいい」
「父様⁉︎」
「……テオン。私がお前に辛くあたったのは…、激動の蒼陵を統べることになろうお前を、強く鍛えたかったからだ。お前に神獣の力がなくとも、お前には知恵がある。たとえ青龍がお前を認めなくても、私はお前以外に祠官の座を譲りたいとは思わなかった。そして、私は長くない。お前をずっと守れるわけではないのだ。だから私が死んでもお前だけは生き残るために、お前が蒼陵を立て直すために、輝硬石は必要だと判断した」
テオンのためにと、他者が犠牲になる方法を採用した祠官。サクは賛同する気にはならなかったが、そこまでするほど、父として息子を生きさせたいと願った心は、否定する気にはならなかった。
「私が追い出さぬ限り、お前は私を心配して青龍殿を出ぬだろう。国を統べる者は、優しさと知識だけではやっていけぬのだ。広い世界を、現実を知り、正しい知識を選ぶ判断力を養わねば。
だから……外に出した。民がなにを望んでいるのか、どんな暮らしをしているのか、お前の中で国とはこうあるべきだという形が出来たはずだ。あとはお前が、経験から生きるために必要なものを判断していくだけだ。私は温室育ちだから、犠牲を出す方法を選べた。こんな祠官になるなよ。常に民の心を思え」
「と、父様……」
「父はいつもお前を思っていた。お前と……会いたいと、もう一度"父様"と呼んで貰いたいと…。それが叶わぬと思いながらも。酷い父親でも、その願いは叶われた。ならば今度は、お前の願いが叶う番だ」
「そんな……」
「辛い思いをしただろうな。だがよく生き抜いてくれた。ギルからお前が活き活きと働きながら、皆から信頼されて統率していることを聞いていた。さすがだな、テオン。父は誇りに思うぞ?」
「父様……、父様……っ、うあああああっ!!」
父から認められたテオンは、感極まって泣きじゃくりながら祠官に抱きついた。祠官は優しく微笑みながらテオンの頭を撫でる。
ああ、これで本当に父子に戻ったのだとサクは感じ、危機の最中だと思いつつも、鼻を啜ってしまう。