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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
「……は?」
「あたしは……お父様と一緒に、ここに残る」
「なに言ってるんですか、姫様!! いまや玄武殿の内外、敵だらけなんですよ!? よく見て下さい、食欲旺盛なおかしな化物がいるでしょう!?」
「いいの……もう。もう……どうでもいいの……。あたしがあまりにも馬鹿で浅はかで脳天気すぎたために、あそこまでリュカに恨まれて……そのせいで多くの人達が死んでしまった。お父様も……皆も……」
嗚咽を漏らすユウナの目から、涙が伝い落ちる。
「死にたい……」
それは絞り出すような掠れた声だった。
「生きていたくない……」
悲痛さだけしか感じられない、その心の吐露に……
「あたしを……死なせて……」
サクは痛ましげな顔をすると、苦しげに目を閉じ……そして――。
「姫様、失礼しますっ!!」
ユウナの頭を手で叩いた。
「痛っ!!」
「とち狂ったことを考える頭はこれですか!! いいですか、姫様。貴方は生き抜かないといけねぇんですよ。それでこそ初めて死んだ者達が浮かばれるってもんです。姫様まで死んでしまってどうするんですか!!」
「だって……もう誰もいなくなったもの……。生きる意味なんか……」
「俺は?」
「え?」
「俺だけは、ひとり残しても平気だっていうのか!?」
サクの怒声にユウナの涙が止まる。
「生きる理由がないというのなら、俺のために生きてくれよ、姫様。姫様も皆も誰もを助けることが出来なかった、不甲斐ないこの従僕を鍛えるために、姫様、生き抜いてくれよ。
俺を姫様の生きる理由にしろよ!!」
「サク……」
「俺は、姫様を死なせない。俺はずっと姫様と一緒だ。
もしも姫様が死ぬというのなら……」
サクの漆黒の瞳が真剣ゆえに鋭さを放つ。
「俺も死にます」