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吼える月
第26章 接近
……同時にその直感は、嫌な予感を感知していた。
なぜこんな急ぐ事態なのに、これからいつでも出来るようなこんな親子の会話を始めた?
それに祠官の顔が、やけに顔色が悪く強張っていないか。
「ジウ、後は頼むな……」
テオンの頭の上で、祠官は目を閉じながら天井を振り仰ぐと、声を張り上げた。
「神獣青龍よ。此の身を受け、何卒、息子を。息子とこの国の鎮護を、蒼陵の祠官、命をかけて願い奉らん!!」
「父様?」
そしてなにかの呪文を口にし始めた祠官が、浅黄色に発光した時だった。
ジウが、腰から取りだした刀を――、
「ジウ殿!?」
祠官の胸に突き刺したのは。
「父様――っ!?」
「私もただの親…。今こそ、子を守る盾とならん」
吹き出る血潮の中、祠官はジウに笑って言った。
「その力を…私の治癒に使わせた…だけではなく、最後…まで、嫌な役目を…すまぬ、な。お前の願いも、叶え…させよ」
そして――テオンの腕に、崩れ落ちた。
「父様!? 父様!? お兄さん、お兄さんっ、どうしたら血が止まるの!? 止めても止めても、止まらないんだっ!!」
サクが慌てて祠官の身体を見ると、ジウのつけたのは、致命傷だった。もう完全に息絶えており、玄武の力でもその顔に生気を戻すことは出来なかった。
「なんで……なんでだよ。せっかく父様に会えたのに。せっかく、せっかく……父様、死なないでよ!! ねぇ僕が父様を糾弾したから!? だから!? だったらなにも言わなかった。僕、なにも言わなかったよ――っ!!」
テオンは父親の骸を抱きしめて、声を嗄らせて泣いた。
「父様あああああああ!!」
「ジウ殿、なぜ!?」
ジウを責めることすら出来ずに慟哭しているテオンに代わり、サクが怒鳴った。
ジウは――、
「蒼陵の祠官の交代は、前代の死をもってなされる」
目から涙を流して言う。
「祠官から言われていた」
――私は長くない。私亡き後はテオンを祠官に据えよ。私が病になっておらなかったら、もっとテオンにしてやれることがあったのに時間が足りぬ。
――もしも私の生があるうちにテオンと会えたのなら、その場で祠官の座を譲る。私を殺すのだ。これは私の命令だ。
――テオンを、よろしく頼む。