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吼える月
第26章 接近

ジウは、泣きじゃくるテオンの元に片膝をつき、拳に反対の掌を添える武官の礼を見せて言った。
「テオン様。今から、あなたが蒼陵の祠官です」
「嫌だ……。そんなの嫌だっ、僕はこんな形の祠官は望んでいないっ!!」
「お父上の遺志を汲みなされ!! 今、この時に祠官の座を渡された、その意味をお考えなされよ!!」
「この、時……?」
「そうこの時。親の愛が力となる……それが必要なこの時!! テオン様にやりたいようにしろと、テオン様を苦しませていたすべてのしがらみを、その命で廃されました」
「……っ」
「1年前から、祠官は決めておられた。余命がないことを悟り、その間でテオン様を後継者としてどうすれば強くできるのか。そして祠官は、テオン様に引き継がせるために、輝硬石を作られた。蒼陵を守ることが出来るそれは、即ちテオン様の武器。せめて青龍の力のないテオン様を守る力になれればと。多くの犠牲を出す方法を選ばれるほどに、祠官はテオン様のことを本当に案じられていた。
そして。祠官は今、見せられたのです。親が子供に示す、最高の愛を」
"私もただの親…。今こそ、子を守る盾とならん"
「さあ、新祠官。お命じ下さい。
今まで地下にて眠っていた、蒼陵国……、この青龍の武神将、いかが致しましょうや!!」
テオンは泣腫らした赤い目で、サクを見た。
突然すぎて、どうしたらいいのかわからないのだろう。
「……お前が決めろ。ここはお前の国だ」
テオンは口を引き結んだ後、父親の骸をぎゅっと抱きしめた。そしてなにか小さく語りかけた後、ジウに振り向き、落ち着いた声で言う。
「蒼陵に仇なす敵を殲滅し、国を民を守れ。
これより、防御ではなく戦いに転じよ」
毅然と言い切ったテオンが発光する。それは、父が最期に見せた色を纏っていた。
子を想う父の力が、確かに子に受け継がれた瞬間だった。
「御意」
歓喜にジウの声が震える。
蒼陵国――。
今ここに……新たなる祠官が誕生した。

